【ことわざ】
雨に濡れて露恐ろしからず
【読み方】
あめにぬれてつゆおそろしからず
【意味】
大きな災難にあった者は、それより小さな災難を恐れないというたとえ。


【対義語】
・羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)
「雨に濡れて露恐ろしからず」の語源・由来
このことわざは、雨にすっかり濡(ぬ)れてしまった人は、あとから露(つゆ)に濡れるくらいのことを恐れない、という身近な情景から生まれた表現です。雨は露よりも強く、体を大きく濡らします。そのため、すでに大きな災難を受けた人にとって、それより小さな災難は恐れるほどではない、という意味へつながります。
古い用例として重要なのは、『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603年刊、1604年補遺)に掲げられた形です。この書物は、日本語をポルトガル語で説明する辞書で、当時の日本語の言い方を知る手がかりになります。
『日葡辞書』には、このことわざが「Ameni nurete tçuyu vosoroxicarazu」というローマ字表記で記されています。これは「雨に濡れて露恐ろしからず」に当たる形で、すでに近世初めには、ひとまとまりの言い回しとして使われていたことが分かります。
この古い形では、「つゆ」がローマ字で表され、現在の説明では「露」の漢字を用いる形が一般に用いられます。表記は変わっても、雨と露を比べる考え方は変わっていません。大きなものに耐えたあとでは、小さなものを恐れない、という比喩の骨組みがそのまま残っています。
同じ「濡れる」「露」という材料を用いる別の表現に、「濡れぬ先こそ露をも厭え」があります。こちらは、一度過ちを犯すと、さらにひどい過ちを平気で犯すようになる、という戒めを表します。水に濡れるという似た情景を使っていても、「雨に濡れて露恐ろしからず」は、大きな災難を経験した後の落ち着きや強さを表す点で、意味の向きが異なります。
このように、「雨に濡れて露恐ろしからず」は、雨と露の大小の違いをもとにした分かりやすい比喩です。近世初めにはすでにことわざとして記録され、現在も、大きな困難をくぐり抜けた人が小さな困難に動じない様子を言い表す言葉として使われています。
「雨に濡れて露恐ろしからず」の使い方




「雨に濡れて露恐ろしからず」の例文
- 大きな地震の後片づけを経験した父は、小さな修理には雨に濡れて露恐ろしからずの落ち着きで向き合った。
- 長い入院を乗り越えた祖父にとって、数日の休養は雨に濡れて露恐ろしからずだった。
- 全国大会の厳しい試合を経験した選手たちは、校内の練習試合では雨に濡れて露恐ろしからずの表情を見せた。
- 大きな発表で失敗を乗り越えた彼女は、次の短いスピーチには雨に濡れて露恐ろしからずで臨んだ。
- 大規模なシステム障害に対応した部署は、翌週の小さな問い合わせには雨に濡れて露恐ろしからずの様子だった。
- 家族で大きな困難を乗り切ったあと、少し予定が変わったくらいでは雨に濡れて露恐ろしからずだと母は言った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・小学館『大辞泉』編集部編、松村明監修『大辞泉』小学館、1995年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・土井忠生・森田武・長南実編訳『邦訳 日葡辞書』岩波書店、1980年。
・日本イエズス会『日葡辞書』1603年、補遺1604年。























