【故事成語】
怪力乱神を語らず
【読み方】
かいりょくらんしんをかたらず
【意味】
怪しげなことや、不確かなことを口にしないということ。


【英語】
・not to talk about strange things, feats of strength, disorder, and spirits(怪異・力・乱・神を話題にしない)
「怪力乱神を語らず」の故事
もとになったのは、中国春秋時代の思想家である孔子の言行を、孔子の死後に弟子または再伝の弟子がまとめた『論語』です。『論語』は二十篇から成り、孔子の考え方を伝える重要な書物として読まれてきました。
『論語』述而第七には、「子不語怪,力,亂,神。」とあります。これを日本語では「子、怪・力・乱・神を語らず」と読み、先生、つまり孔子は、怪異、力、乱、神について語らなかった、という意味になります。
ここでいう「怪」は怪しく不思議なこと、「力」は怪力や武勇の話、「乱」は道を乱すことや無秩序なこと、「神」は神秘的なことを指します。つまり、孔子は人を正しく導く学びから離れやすい話題や、根拠を確かめにくい話題を、軽々しく語らなかったということです。
古い注釈では、「力」の例として、奡(ごう)が舟を動かす話や、烏獲(うかく)が千鈞(せんきん)を持ち上げるような話が挙げられています。また、「乱」は臣が君を弑(しい)し、子が父を弑するような道徳を大きく乱すこと、「神」は鬼神(きじん)のことと解かれています。これらは、人の教えや生活にすぐ役立つ話というより、驚きや恐れを誘いやすい話題として受け止められていました。
『論語集解』や『論語義疏』では、この四つの事柄は教化に益が少ない、または語るに忍びないものとして説明されています。さらに『論語集注』では、怪異・勇力・悖乱(はいらん)は正しい理にかなうものではなく、鬼神も人が軽々しく明らかにしにくいものだと述べています。ここから、孔子の態度は、不思議な話をすべて否定するというより、分かったように語って人を惑わせることを避ける姿勢として理解できます。
日本語では、「怪力乱神」というまとまった形も早くから使われています。『太平記(たいへいき)』(応安年間、南北朝時代の軍記物語)には、「怪力乱神」という形の用例があり、理性では説明がつかないような不思議な存在や現象を表す言葉として定着していきました。
その後、「怪力乱神を語らず」という形では、単に妖怪や鬼神の話をしないというだけでなく、怪しげなことや不確かなことを、根拠もなく語らないという意味で使われるようになりました。近代の作品にも、この言い方は孔子の言葉として引かれており、現在でも、うわさや迷信めいた話をむやみに広げない姿勢を表す故事成語として用いられます。
「怪力乱神を語らず」は、ものごとを冷たく切り捨てる言葉ではありません。分からないことを、分からないまま断定しないこと、興味本位の話で人を惑わせないことを大切にする言葉です。孔子の態度から生まれたこの故事成語は、今でも、確かなことを落ち着いて語るための戒めとして生きています。
「怪力乱神を語らず」の使い方




「怪力乱神を語らず」の例文
- 新聞部は校内のうわさを記事にせず、怪力乱神を語らずの態度で事実を重んじた。
- 祖父は不思議な話を聞いても、根拠のない断定を避け、怪力乱神を語らずという姿勢を守った。
- 災害のあとに根拠のない予言が広がったが、彼女は怪力乱神を語らずの考えで友人に回さなかった。
- 会議では出所不明の評判を材料にせず、怪力乱神を語らずを大切にした。
- 弟は動画の心霊話を本当だと言いかけたが、怪力乱神を語らずと思い直した。
- 市の広報は不確かな情報を広げないよう、怪力乱神を語らずの姿勢で発表内容を慎重に整えた。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・『論語』。
・何晏等集解『論語集解』。
・皇侃『論語義疏』。
・朱熹『論語集注』。
・『太平記』14世紀後半。























