【ことわざ】
後足で砂をかける
【読み方】
あとあしですなをかける
【意味】
世話になった人を裏切るだけでなく、去りぎわにさらに迷惑をかけることのたとえ。


【英語】
・bite the hand that feeds one(世話をしてくれる相手を害する)
【類義語】
・恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
・飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる)
【対義語】
・立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず)
「後足で砂をかける」の語源・由来
「後足」は、獣などの尻に近い方の足を指す言葉です。「後足で砂をかける」は、犬などが後ろ足で砂をけちらし、振り向きもせずに立ち去る動作をもとにした表現です。そこから、去っていく者が残された相手のことを考えず、迷惑まで残していく様子をたとえるようになりました。
このことわざの中心には、「去る」という動作と、「砂をかける」という迷惑な行為が重なっています。単にその場を離れるだけなら悪い意味にはなりませんが、恩義のある相手を裏切り、さらに相手を困らせるところに、このことわざの強い非難の意味があります。
古い用例としては、歌舞伎『芽出柳緑翠松前(めだしやなぎみどりのまつまえ)』(1883年・明治16年1月初演、河竹黙阿弥作)に、この言い回しが出てきます。この作品は一心太助の後続作の一つで、河竹黙阿弥作として伝わります。
その四幕には、「御暇の出た其時に、下世話で申す後足で砂をかけて参った奴」という言葉があります。ここでは、暇を出された、つまりその場を去ることになった人物の振る舞いを、世間でいう「後足で砂をかける」に当たるものとして責めています。
この用例で大切なのは、ただ「砂をける動物のしぐさ」を述べているのではなく、人の別れ際の不義理を表す言葉として、すでに使われている点です。つまり、明治時代には、恩のある相手への裏切りと、去り際の迷惑を一つにまとめることわざとして通じていたといえます。
その後の用例として、豊田三郎の『弔花』(1935年・昭和10年)にも、「後足で砂をかけて行きやがる女房」という形で使われています。ここでも、相手が去っていくことそのものより、去る前後に恩や情を裏切るような振る舞いをしたことが問題にされています。
このように、「後足で砂をかける」は、もとの具体的な動作から、去り際の不義理を表すことわざへと定着しました。現在でも、退職、転校、別れ、取引の終了などで、世話になった相手に迷惑を残して去る場合に、強い非難をこめて使われます。
「後足で砂をかける」の使い方




「後足で砂をかける」の例文
- 長年世話になった店を急に辞め、客の情報まで持ち出すとは、後足で砂をかける行為だ。
- チームに助けてもらっていた選手が、移籍の直前に仲間を悪く言うのは、後足で砂をかけるようなものだ。
- 退職するなら、後足で砂をかけることのないよう、引き継ぎをきちんと済ませるべきだ。
- 友人に宿題を教えてもらったのに、その友人を笑いものにするのは、後足で砂をかけるに等しい。
- 祭りの準備を任されていた人が、直前に道具を片づけず去ったため、後足で砂をかける形になった。
- 契約を終えるときこそ、後足で砂をかけるような態度を避け、最後まで礼を尽くす必要がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・河竹黙阿弥『芽出柳緑翠松前』1883年。
・豊田三郎『弔花』1935年。























