【ことわざ】
金の卵を産む鵞鳥を殺すな
【読み方】
きんのたまごをうむがちょうをころすな
【意味】
目先の大きな利益を得ようとして、将来にわたり利益を生み続ける大切なものを失ってはならないという戒め。


【英語】
・Don’t kill the goose that lays the golden eggs.(目先の利益のために、将来の利益を生むものを失うな)
【類義語】
・欲の熊鷹股を裂く(よくのくまたかまたをさく)
・元も子もない(もともこもない)
「金の卵を産む鵞鳥を殺すな」の語源・由来
「金の卵を産む鵞鳥を殺すな」は、イソップの名で伝わる寓話「金の卵を産む鵞鳥」にもとづくことわざです。「金の卵を産む鵞鳥」は、大きな利益を繰り返しもたらすものを表し、そこに「殺すな」と加えることで、利益のもとを自ら壊してはならないという戒めを示しています。
物語では、ある男が、毎日一個ずつ金の卵を産む鵞鳥を飼っていました。男はその卵を売って豊かになりますが、しだいに一日一個では満足できなくなり、鵞鳥の腹の中には金がまとめて詰まっているに違いないと思い込みます。
そこで男は、一度にすべての金を手に入れようとして、鵞鳥を殺し、腹を切り開きました。しかし、中は普通の鵞鳥と変わらず、金は入っていませんでした。男は、期待した財宝を得られなかったばかりか、毎日金の卵を得られる恵みまで失ってしまいます。
この物語の現存する古い形は、五世紀ごろに活動したローマの寓話詩人アウィアヌスのラテン語作品に収められています。物語番号では「ペリー・インデックス87」に当たり、鵞鳥の持ち主が毎日の利益を待てず、すべてを一度に得ようとして鳥を殺す筋書きになっています。
アウィアヌスの作品では、自然は一度に一つずつ恵みを与えていたのに、持ち主が利益を急いだため、鵞鳥の体内にあるはずの宝を求めて命を奪います。その結末から、すべてをすぐに求める者は、日々与えられていた利益まで失うという教訓が示されています。
この寓話は中世にも伝えられ、英語圏では、ウィリアム・キャクストンが刊行した『イソップ寓話』(1484年)にも収められました。この版では、持ち主が鵞鳥に毎日二個の卵を産むよう命じ、それができないと知って鵞鳥を殺し、もともと得ていた大きな利益まで失う話になっています。
物語の細部には違いがありますが、いずれも、長く続く確かな利益を大切にせず、短期間でより多くを得ようとした欲が破滅を招くという点で共通しています。やがて英語では、「金の卵を産む鵞鳥を殺す」という形が、目先の必要や利益のために、将来の成功や収入を支えるものを壊す意味で定着しました。
日本では、『イソップ童話集』(1921年・大正時代、森川憲之助訳)に、「黄金の卵を生む鵞鳥」という題で収められています。「黄金」と「金」、「生む」と「産む」、「鵞鳥」と「雌鳥」「ニワトリ」など、表記にはいくつかの形がありますが、いずれも同じ寓話をもとにしています。
その後、「金の卵を産む鵞鳥」は、実際の鳥を離れ、莫大な利益を生む人や事業などを指す比喩として広まりました。伊藤整の小説『氾濫』(昭和33年)にも、将来大きな利益を生む可能性のある技師を「金の卵を産み出すかも知れぬ」と表す用例があり、利益をもたらす存在という意味が人にも広がっていたことが分かります。
現在では、働く人に無理をさせること、天然資源を使い尽くすこと、将来の成長を支える設備や事業を損なうことなどへの戒めとして用います。目の前の利益だけに心を奪われず、その利益がどこから生まれ、どうすれば長く保てるかを考える大切さを教えることわざです。
「金の卵を産む鵞鳥を殺すな」の使い方




「金の卵を産む鵞鳥を殺すな」の例文
- 店が目先の売上を求めて熟練した職人を酷使すれば、金の卵を産む鵞鳥を殺すなという戒めに背く。
- 人気商品を生み出す研究部門の予算を削る案に、社長は金の卵を産む鵞鳥を殺すなと反対した。
- 稚魚まで捕り尽くす漁法は、金の卵を産む鵞鳥を殺すなという教訓に反し、将来の漁獲を危うくする。
- 観光客を引きつけている美しい森を乱開発するのは、金の卵を産む鵞鳥を殺すなという言葉を忘れた行いだ。
- 農園では土を休ませながら作物を育て、金の卵を産む鵞鳥を殺すなという考えを守っている。
- 目先の勝利だけを求めて選手に無理をさせる監督を見て、彼は金の卵を産む鵞鳥を殺すなと思った。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・中務哲郎訳『イソップ寓話集』岩波書店、1999年。
・森川憲之助訳『イソップ童話集』至誠堂書店、1921年。
・J. Wight Duff・A. M. Duff編『Minor Latin Poets, Volume II』Harvard University Press,1934.
・R. T. Lenaghan編『Caxton’s Aesop』Harvard University Press,1967.
・Jon R. Stone『The Routledge Book of World Proverbs』Routledge,2006.























