【故事成語】
金を炊ぎ玉を饌す
【読み方】
きんをかしぎぎょくをせんす
【意味】
金や玉にたとえられるほど、豪華でぜいたくなごちそうのこと。


【英語】
・a sumptuous feast.(豪華でぜいたくなごちそう)
【類義語】
・食前方丈(しょくぜんほうじょう)
・太牢滋味(たいろうのじみ)
【対義語】
・一汁一菜(いちじゅういっさい)
「金を炊ぎ玉を饌す」の故事
「金を炊ぎ玉を饌す」は、中国の唐代初期に活躍した詩人、駱賓王の長編詩『帝京篇(ていけいへん)』に出てくる表現にもとづきます。駱賓王は、王勃・楊炯・盧照鄰とともに「初唐四傑(しょとうしけつ)」と呼ばれ、華やかで力強い詩を残した人物です。
『帝京篇』(674〜676年ごろ・唐、駱賓王作)は、唐の都であった長安の繁栄を描いた、九十八句から成る長い詩です。前半では、宮殿や貴族の屋敷、にぎやかな町、豪華な宴や遊びが描かれ、後半では、栄華がいつまでも続くものではないことや、才能がありながら世に認められない人の思いへと、筆が移っていきます。
この詩には、「平台戚里帶崇墉、炊金饌玉待鳴鐘」とあります。皇族や外戚(がいせき:天子の母方や妻方の親族)の屋敷が高い垣に囲まれ、その中では、金を炊き、玉を食膳に並べて、鐘が鳴るのを待つという情景です。
もちろん、実際に黄金を鍋で煮たり、宝玉を食べたりするという意味ではありません。「炊金」は金を煮炊きすること、「饌玉」は玉を食卓に供えることを表し、金や玉を惜しげもなく料理に使うほど豪華な食事を、強い誇張によって描いています。
また、「待鳴鐘」という言葉からは、鐘の合図を待って食事を始める、格式の高い宴の様子が伝わります。単に料理の量が多いのではなく、貴重な食材、美しい器、整えられた作法までがそろった、ぜいたくな暮らしを一つの場面として表しているのです。
駱賓王の句と同じ形ではありませんが、これより古い『戦国策(せんごくさく)』(前漢、紀元前1世紀、劉向編)には、「食玉炊桂」という表現が出てきます。蘇秦が楚の国の物価の高さを訴え、食べ物は玉ほど高く、燃料の薪は桂の木ほど高いとたとえた言葉です。
「食玉炊桂」は物価が非常に高いことを表し、「金を炊ぎ玉を饌す」とは意味が異なります。しかし、金・玉・桂などの貴重なものを食事や炊事に重ね、並外れた高価さを示す表現が、中国の古典に早くからあったことを伝えています。
やがて、『帝京篇』の「炊金饌玉」という四字が、豪華なごちそうを表す言葉としてまとまり、日本では、漢文を書き下した「金を炊ぎ玉を饌す」という形でも用いられるようになりました。また、「饌玉炊金」と順序を入れ替えた形もあります。
明代の戯曲『牡丹亭還魂記(ぼたんていかんこんき)』(1598年、湯顕祖作)にも、「饌玉炊金」という形が出てきます。金や玉を食事に重ねる表現が、唐代の詩から後の時代へ受け継がれ、豪華な飲食を表す言い方として広まっていたことが分かります。
現在の「金を炊ぎ玉を饌す」は、金銀を費やしたように豪華で、見た目にもすばらしい料理を表します。ただ腹を満たすための食事ではなく、ぜいたくな材料と美しいしつらえを備えた宴を、金と玉の輝きによって印象深く言い表す故事成語です。
「金を炊ぎ玉を饌す」の使い方




「金を炊ぎ玉を饌す」の例文
- 祝賀会の食卓には、金を炊ぎ玉を饌すと形容したくなる料理が並んだ。
- 王侯の宴を描いた絵には、金を炊ぎ玉を饌すような豪華さが表れている。
- 結婚披露宴では、金を炊ぎ玉を饌すという言葉にふさわしいごちそうが振る舞われた。
- 海外からの客を迎える晩餐会は、まさに金を炊ぎ玉を饌すものであった。
- 料理長は記念日の献立を、金を炊ぎ玉を饌すほど華やかな内容に仕上げた。
- 金を炊ぎ玉を饌すような席でも、食べ物を粗末にしない心は忘れてはならない。
主な参考文献
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・Merriam-Webster, Inc.『Merriam-Webster.com Dictionary.』
・種村由季子「二つの『帝京篇』―唐太宗と駱賓王―」『中国文学論集』第39号、九州大学中国文学会、2010年。
・駱賓王『帝京篇』唐・7世紀。
・劉向編『戦国策』前漢・紀元前1世紀。
・湯顕祖『牡丹亭還魂記』1598年。























