【慣用句】
玉斧を乞う
【読み方】
ぎょくふをこう
【意味】
詩や文章の添削を、相手への敬意を込めて頼み求めること。


【英語】
・ask someone to correct one’s writing.(人に自分の文章の添削を頼む)
【類義語】
・斧正を請う(ふせいをこう)
・郢斲を請う(えいたくをこう)
「玉斧を乞う」の語源・由来
「玉斧(ぎょくふ)」は、もともと玉で飾った斧、または美しい斧を表す言葉です。唐の李延寿が編んだ『南史(なんし)』(7世紀成立)には「玉斧將揮」とあり、武威を示す美しい斧という意味で使われています。
日本の古い例では、『光悦本謡曲・羽衣(はごろも)』(1540年ごろ・室町時代後期)に、「月宮殿のありさま、玉斧の修理とこしなへにして」とあります。ここでは、月の宮殿を永遠に整える美しい斧を表しており、まだ詩や文章の添削という意味ではありません。
「玉」には、美しい、優れているという意味のほか、相手に関する物事に添えて敬意を表す働きがあります。「玉稿」が相手の原稿を敬っていう言葉であるのと同じように、「玉斧」の「玉」も、文章を直してくれる相手への敬意を示しています。
一方、「斧」は、木を削って形を整える道具です。その働きが、詩や文章から余分な言葉を削り、表現を正しく整えることに重ねられました。このため、「玉斧」は、相手を敬い、その人が詩文を添削することをいう言葉へと意味を広げました。
文章を直す働きを斧にたとえる背景には、『荘子(そうじ)』の「徐無鬼(じょむき)」に記された話があります。昔、郢(えい)の人が鼻先に蠅の羽ほど薄く白土を塗り、匠石という名人に斧で削り取らせました。匠石は、風を起こすほど勢いよく斧を振るいながら、鼻を少しも傷つけず、白土だけをきれいに落としました。
この話から、優れた技量で詩文を添削することを「郢斲(えいたく)」や「郢斧(えいふ)」と呼び、添削を頼むことを「郢斲を請う」などと表すようになりました。「玉斧を乞う」も、斧で慎重に削って形を整えるという比喩を受け継ぎながら、「玉」を添えることで、相手への敬意をいっそう強く表した言い方です。
江戸時代中期に成立した向井去来の『去来抄(きょらいしょう)』(1702〜1704年成立、1775年刊)には、「元は、先師の斧正有し凡兆が句也」とあります。凡兆の句には、先師である松尾芭蕉の添削があったという意味で、「斧正(ふせい)」が詩句を削り直すことを表しています。斧を添削にたとえる言い方が、俳諧の世界ですでに定着していたことが分かります。
「玉斧を乞う」という形は、芥川龍之介の『わが俳諧修業』(大正13年)にも出てきます。芥川は、海軍機関学校の教官として鎌倉に住んでいたころ、高浜虚子に俳句を見てもらったことを、「十句ばかり玉斧を乞ひし所、『ホトトギス』に二句御採用になる」と記しています。十句ほどの添削を頼んだところ、そのうち二句が雑誌に採用されたという意味です。
さらに、石川淳の『歌仙』(昭和27年)には、「つつしんで先達の玉斧を待つ」とあります。ここでは、「玉斧」だけで、先達による批評や添削を意味しています。
このように、「玉斧を乞う」は、美しい斧という具体的な意味をもつ「玉斧」と、斧で削るように詩文を整えるという比喩とが結び付いた表現です。「乞う」には、自分からへりくだってお願いする意味があるため、単に「直してもらう」というよりも、優れた相手に敬意を払い、批評や添削を願うという改まった意味を表します。
「玉斧を乞う」の使い方




「玉斧を乞う」の例文
- 自作の詩を同人誌に載せる前に、先輩に玉斧を乞うことにした。
- 卒業文集の原稿について恩師に玉斧を乞うと、結びの弱さを指摘された。
- 俳句会へ初めて参加した父は、主宰に玉斧を乞うため句稿を持参した。
- 研究発表の文章を整えるため、担当の先生に玉斧を乞う機会を設けた。
- 歌集の刊行を前に、作者は長年の友人へ玉斧を乞う手紙を送った。
- 新人作家は完成した短編について編集者に玉斧を乞う姿勢を忘れなかった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・李延寿『南史』7世紀成立。
・『荘子』「徐無鬼」。
・向井去来『去来抄』1702〜1704年成立、1775年刊。
・『光悦本謡曲・羽衣』1540年ごろ。
・芥川龍之介『わが俳諧修業』1924年。
・石川淳『歌仙』1952年。























