【慣用句】
煽りを食う
【読み方】
あおりをくう
【意味】
強い風の衝撃を受けること。また、周囲の状況の変化によって、思いがけない災難や不利益を受けること。


【類義語】
・側杖を食う(そばづえをくう)
「煽りを食う」の語源・由来
「煽り」は、動詞「あおる」の連用形が名詞となった言葉です。「あおる」は、風を起こして物を動かすこと、また、風のために物が動くことを表し、『玉塵抄(ぎょくじんしょう)』(1563年・室町時代後期、惟高妙安著)には、羽を動かして飛ぶことを述べた「はをあをって飛た」という用例があります。
「煽り」には、強い風による揺れや衝撃、さらに、その勢いによって受ける影響という意味があります。「煽りを食う」は、外から押し寄せる力を自分の身に受ける姿をもとにした言い方です。
「食う」は、食べ物を口に入れる意味だけでなく、望ましくない行為や災いを身に受ける意味にも用いられます。「煽りを食う」の「食う」もこの用法であり、風の衝撃、または周囲の事情による不利益を受けることを表します。
現在の比喩的な意味に近い古い用例は、式亭三馬の洒落本(しゃれぼん)『船頭部屋(せんどうべや)』(1807年・江戸時代後期)にあります。『船頭部屋』は深川古石場を扱う作品で、その中に、「どふ風がかわって、あをりをくふ」と続く言い方が出てきます。
ここでは、実際の風そのものよりも、年季の間に事情が変わり、その影響が身に及ぶ可能性を表しています。外の「風」の変化を、人の境遇を動かす事情の変化に重ねる用法が、江戸時代の段階ですでに使われていたといえます。
一方、J・C・ヘボン編『和英語林集成(わえいごりんしゅうせい)』初版(1867年)には、「煽を食う」が、強い風や動きの衝撃を受ける意味で載っています。刊年は『船頭部屋』より後ですが、風や動きの力をまともに受けるという、この表現の具体的な意味を明確に伝える記録です。
さらに、河竹黙阿弥作の歌舞伎(かぶき)『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』(1881年・明治時代、新富座初演)では、丑松が、相手に刀でおどされても、その威勢にひるむ自分ではないという趣旨の台詞の中で、「煽りを喰ったって」という形を使います。ここでは、風や出来事の余波だけでなく、人の見せる勢いや威圧の影響を受ける意味へも広がっています。
古い用例には、「あをりをくふ」のような仮名書きや、「煽りを喰った」のような表記があり、現在は「煽りを食う」と書くのが一般的です。「煽り」の意味が、風の衝撃から、相手の威勢や状況の変化によって及ぶ影響へと広がる中で、この慣用句も、外から来た不都合を受ける言い方として定着してきました。
そのため、現在は、不況で店の売上げが落ちたり、事故による交通規制で別の行事の予定が変わったりするように、自分が直接起こしたのではない事情によって、思わぬ不利益を受ける場面に用います。もとにあるのは、外から来る風の力を受けて、身の動きや立場を乱される姿なのです。
「煽りを食う」の使い方




「煽りを食う」の例文
- 大雨で幹線道路が通行止めとなり、通学バスもその煽りを食うことになった。
- 原材料の急な値上がりで、町のパン屋も煽りを食うことになった。
- 兄の部活動の大会が延期され、家族旅行もその煽りを食う形で日程を変えた。
- 取引先の工場が停止したため、製品を組み立てる会社まで煽りを食うことになった。
- 一部の利用者の迷惑行為による規則変更で、きちんと利用していた人々まで煽りを食うことになった。
- 近隣の火災に伴う交通規制で、祭りの準備も煽りを食う結果となった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・惟高妙安『玉塵抄』1563年。
・式亭三馬『船頭部屋』1807年。
・J・C・ヘボン編『和英語林集成 初版』1867年。
・河竹黙阿弥『天衣紛上野初花』1881年。























