【故事成語】
愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る
【読み方】
あいしてしかもそのあくをしり、にくみてしかもそのぜんをしる
【意味】
愛する相手の欠点も見逃さず、憎む相手の長所も認めること。好き嫌いに偏らず、人を公平に判断する戒め。


【類義語】
・是是非非(ぜぜひひ)
【対義語】
・痘痕も靨(あばたもえくぼ)
・坊主が憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずがにくけりゃけさまでにくい)
「愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る」の故事
この言葉は、中国の古典『礼記(らいき)』の「曲礼(きょくらい)上」にある教えに基づくものです。「曲礼」は『礼記』の一篇で、立ち居振る舞いから人との向き合い方に至るまで、細やかな礼のあり方を説く部分です。
『礼記』は、古代中国で礼についてまとめられた大切な古典で、五経の一つに数えられ、四十九篇から成ります。戦国時代から秦・漢の時代にわたる礼の説を集めた書物で、今日伝わる形は戴聖(たいせい)に結び付けられていますが、編集の経緯については異なる見方もあります。
「曲礼上」の原文には、「愛而知其惡,憎而知其善」とあります。「愛していてもその人の悪いところを知り、憎んでいてもその人のよいところを知る」という意味で、相手への感情だけで評価を決めないよう教えています。
この一句の直前には、賢い人は、親しく接する相手にも敬意を払い、おそれ敬う相手にも親愛の心を失わない、という教えが置かれています。親しいから甘く見る、苦手だからすべてを退ける、という一方的な見方を戒める流れの中で、この言葉は述べられています。
さらに、その直後には、財を蓄えても人に分け与えられること、安らかな境遇にいても必要なら移れること、利益や困難に直面しても不正な道を選ばないことが続きます。したがって、この言葉は、人を公平に見るだけでなく、自分の欲や恐れにも偏らず、行いを正すための教えの一部でもあるのです。
日本語では、原文の「而」を「しかも」と読み下し、「愛して而も其の悪を知り、憎みて而も其の善を知る」と表す形が用いられています。「而も」が、愛しているにもかかわらず悪を知る、憎んでいるにもかかわらず善を知る、という二つの感情に流されないという意味を、はっきりと伝えています。
また、『礼記』に含まれる「大学」の篇にも、好む相手の悪い点を知り、嫌う相手のよい点を知る人は世の中に少ない、という同じ趣旨の教えがあります。人は愛情や反感のために判断を偏らせやすいからこそ、公平な目を保つことが大切であるという考えが、重ねて示されています。
このように、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知るは、感情をなくすように求める言葉ではありません。人を大切に思う心や、苦手に思う心があっても、相手のよい点と改めるべき点をともに見て、正しく向き合うことの大切さを教える言葉です。
「愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る」の使い方




「愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る」の例文
- 父は、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る姿勢で、わが子の努力を認めながら約束を破った点を注意した。
- 担任は、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る立場から、親しい生徒にも公平な評価をつけた。
- 委員会では、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知ることを心がけ、意見の合わない相手の優れた提案も認めた。
- 長年の友人を推薦する前に、その弱点も確かめる彼の態度は、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知るにかなう。
- 社長は、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る判断によって、対立していた社員の改善案にも耳を傾けた。
- 地域の代表を選ぶ話し合いでは、愛して而も其悪を知り、憎みて而も其善を知る目で、候補者の実績と課題を見比べた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・阮元校刻『十三經注疏:附校勘記』藝文印書館。
・『礼記』。
・朱熹『四書章句集注』。























