【ことわざ】
味無い物の煮え太り
【読み方】
あじないもののにえぶとり
【意味】
味の悪いものに限って煮るとかさが増えるように、悪いものやつまらないものほど多く、よいものは少ないというたとえ。


【英語】
・quantity over quality(質より量の状態)
・Ill weeds grow apace.(悪いものほど早くはびこる)
【類義語】
・まずい物の煮え太り(まずいもののにえぶとり)
「味無い物の煮え太り」の語源・由来
「味無い物の煮え太り」は、もともと食べ物を煮る場面から生まれた比喩です。「味無い」は、味がよくない、うまみが少ないという意味で、「煮え太り」は、煮ているうちにかさが増えることを表します。
このことわざでは、味の悪いものに限って煮ると量ばかり増える、という皮肉な見方が土台になっています。そこから、つまらないものや価値の低いものほど多く、よいものは少ない、という世の中への観察を表す言葉になりました。
食べ物の話から出た言葉ですが、現在の意味は料理そのものに限られません。中身の薄い文章、役に立ちにくい品物、似たような案ばかりが多い状況など、量だけが目立って質が伴わない場合に使われます。
古い用例につながる作品として、『世間娘容気(せけんむすめかたぎ)』(1717年・江戸時代中期、江島其磧作)が挙げられます。この作品は浮世草子(うきよぞうし)で、当時の娘たちの気質をいくつもの章に分けて描いた短編小説集です。
『世間娘容気』は、驕(おご)り、悪性、悋気(りんき:ねたみ深い心)など、江戸時代の町人社会で目立った人物の性格やふるまいを描く「気質物(かたぎもの)」の流れにある作品です。そのような作品の中にこのことわざが伝わることは、日常の会話や人間観察の中で、皮肉をこめた言い方として用いられていたことを示します。
この作品には、題名の表記にも揺れがあります。『世間娘気質』のほか、『世間娘形気』『世間娘容気』などの名が伝わっており、いずれも「せけんむすめかたぎ」と読まれます。
この表記の揺れは、ことわざそのものの意味を変えるものではありません。むしろ、江戸時代の出版物では、同じ作品や同じ言い回しが、漢字の選び方を変えながら伝わることがあったことを示しています。
現在の見出しとしては、「味無い物の煮え太り」と漢字を交えた形も、「味ない物の煮え太り」とかなを用いた形も使われています。どちらも、味の悪いもの、つまらないものが、かえって量ばかり多いという同じ意味を表します。
また、近い言い方として「まずい物の煮え太り」があります。こちらは「味無い」を「まずい」と言い換えた形で、質のよくないものに限って量が多いという同じ発想をもっています。
このことわざの中心にあるのは、「多いこと」と「よいこと」は同じではない、という見方です。数や量だけに目を向けるのではなく、中身のよさを見分けることの大切さを、少し辛口の言い方で伝えている表現です。
「味無い物の煮え太り」の使い方




「味無い物の煮え太り」の例文
- 配られた資料は厚いだけで要点が少なく、味無い物の煮え太りという印象を受けた。
- 景品の箱には同じような小物ばかり入っていて、味無い物の煮え太りだった。
- 投稿数は多いが内容の薄い記事ばかりで、味無い物の煮え太りといわざるをえない。
- 候補案を百個集めても、実行できる案がほとんどなければ味無い物の煮え太りだ。
- 安い菓子が大袋いっぱいに入っていたが、味が単調で味無い物の煮え太りだった。
- 会議では発言の数だけは多かったが、解決につながる意見は少なく、味無い物の煮え太りに終わった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・ブリタニカ・ジャパン編『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』ブリタニカ・ジャパン。
・江島其磧『世間娘容気』1717年。
・Jennifer Speake ed., 『The Oxford Dictionary of Proverbs Fifth Edition』Oxford University Press、2008年。























