【ことわざ】
足の跡はつかぬが筆の跡は残る
【読み方】
あしのあとはつかぬがふでのあとはのこる
【意味】
文字で残すことは慎重にする必要があるという教え。足跡は消えやすいが、書いた文字や文章は長く残ることをたとえる。


【英語】
・Spoken words fly away, written words remain.(話した言葉は消え、書かれた言葉は残る)
【類義語】
・口は禍の門(くちはわざわいのかど)
・物言えば唇寒し秋の風(ものいえばくちびるさむしあきのかぜ)
「足の跡はつかぬが筆の跡は残る」の語源・由来
足の跡はつかぬが筆の跡は残るは、中国の古い人物や出来事をもとにした故事成語ではなく、足跡と筆跡を対比して、文字にする言葉の重さを説くことわざです。足跡はその場にしばらく残っても消えやすく、筆で書いた跡は文書として後まで残るという見方から、書く前によく考えるべきだという教えになっています。
このことわざで大切なのは、「跡」という言葉の重なりです。「跡」は、何かが通ったあとや、以前に何かが行われたしるしを表す言葉です。足で残る跡と、筆で残る跡を並べることで、同じ「跡」でも残り方が違うことをはっきり示しています。
「足跡(あしあと)」は、人や動物が歩いたあとに残る足の形を意味します。古い例としては、中国・唐の恵立(えりゅう)が撰し彦悰が増補した伝記『慈恩寺三蔵法師伝(じおんじさんぞうほうしでん)』の日本での訓点資料に、仏の脚跡をいう用例が伝わっています。ここでの足跡は、実際に踏んだあととしての具体的な跡です。
一方、「筆の跡(ふでのあと)」は、書いてある文字や文章、またその書きぶりを表す言葉です。『長秋詠藻(ちょうしゅうえいそう)』(1178年・平安時代末期、藤原俊成自撰)にも「筆の跡」の古い用例があり、涙にまかせて書いた文字の跡という文脈で使われています。
「筆跡(ひっせき)」という言葉にも、書かれた文字や書きぶりという意味があります。『性霊集(しょうりょうしゅう)』(835年ごろ成立、空海の詩文などを真済が集成)には「筆迹」の古い用例があり、文字のありさまを表す言葉として早くから使われていました。
江戸時代にも、筆跡は人の書きぶりや書かれた文字を指す言葉として用いられました。たとえば、井原西鶴(いはらさいかく)の浮世草子『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期)には、人の筆跡を話題にする用例が伝わっています。
このように、「足跡」は歩いたあとに残る形、「筆の跡」や「筆跡」は書かれた文字や書きぶりを指します。ことわざは、この二つをただ並べるのではなく、消えやすいものと残りやすいものとして向かい合わせています。
「足の跡はつかぬ」の「つかぬ」は、ここでは足跡が長く残りにくいという意味で受け取ると分かりやすくなります。ぬかるみや雪の上なら足跡は残りますが、雨や風、人の通行によってやがて消えていきます。これに対して、書かれた文字は紙や文書の形で保存され、思いがけないところまで残ることがあります。
「筆の跡は残る」は、昔の筆と墨による文字だけを指すのではありません。現在では、手書きの文字だけでなく、印刷された文章や記録として残る言葉にも当てはめて理解できます。書いたものは読み返され、写され、人に渡り、あとから書いた人の考えや態度を示すものにもなります。
このことわざは、書くことを恐れさせる言葉ではなく、書く言葉を大切に扱うための戒めです。思いつきで強い言葉を書いたり、相手を傷つける文を残したりすると、その場の気分が過ぎたあとにも、文字だけが残ってしまいます。
したがって、足の跡はつかぬが筆の跡は残るは、文字には時間を越えて残る力があるという生活上の知恵を表しています。書く前に一度立ち止まり、相手にどう伝わるか、あとで読み返して恥ずかしくないかを考えることが、このことわざの現在にも通じる意味です。
「足の跡はつかぬが筆の跡は残る」の使い方




「足の跡はつかぬが筆の跡は残る」の例文
- 友人への手紙に怒りの言葉を書く前に、足の跡はつかぬが筆の跡は残ると思い直した。
- 連絡帳に人を責めるような書き方をしてしまい、足の跡はつかぬが筆の跡は残ると反省した。
- 感想文は先生や友人も読むので、足の跡はつかぬが筆の跡は残るという気持ちで言葉を選ぶ。
- 仕事の記録にあいまいな表現を残すと誤解を招くため、足の跡はつかぬが筆の跡は残ると心得るべきだ。
- 地域の掲示板に意見を書くなら、足の跡はつかぬが筆の跡は残ることを忘れてはいけない。
- 家族への置き手紙でも、足の跡はつかぬが筆の跡は残るのだから、思いやりのある書き方をしたい。
主な参考文献
・三省堂編修所編『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『小学館 故事成語を知る辞典』小学館、2018年。























