【故事成語】
悪、小なるを以て之を為すこと勿れ
【読み方】
あく、しょうなるをもってこれをなすことなかれ
【意味】
どんなに小さな悪事でも、軽く見て行ってはならないという戒め。小さな悪を見逃す心が、やがて大きな過ちにつながることをいう。


【英語】
・Do not think lightly of evil.(小さな悪を軽く考えるな)
・A small leak will sink a great ship.(小さなほころびが大きな破綻を招く)
【類義語】
・小事は大事(しょうじはだいじ)
・蟻の穴から堤も崩れる(ありのあなからつつみもくずれる)
・悪事身に返る(あくじみにかえる)
【対義語】
・善、小なるを以て為さざること勿れ(ぜん、しょうなるをもってなさざることなかれ)
・善は急げ(ぜんはいそげ)
・積善の家には必ず余慶あり(せきぜんのいえにはかならずよけいあり)
「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の故事
この故事成語は、劉備(りゅうび)が亡くなる前、子の劉禅(りゅうぜん)に与えた遺詔の中に出てくる言葉である。時期は223年(章武3年・中国三国時代)で、劉備は病の重い中、後のことを託す言葉を残した。
その文は、『三国志(さんごくし)』巻三十二の蜀書先主伝に伝わる。今よく知られる形は、裴松之(はいしょうし)の注が『諸葛亮集(しょかつりょうしゅう)』から引いて残したものである。
遺詔の中で劉備は、まず劉禅の成長ぶりが思った以上であると伝え、しっかり励めと背中を押している。そのあとに、悪、小なるを以て之を為すこと勿れ、善、小なるを以て為さざること勿れ、という一対の教えを続けた。
さらにそのあとには、惟賢惟徳、能服於人という言葉も続く。人の心を本当に従わせるのは、力や見せかけではなく、賢さと徳であるという意味であり、この一句が前後の文と強く結びついている。
ここで大切なのは、この言葉が大きな犯罪だけを禁じたものではないことである。ごく小さな悪なら許される、と考える心そのものを戒め、日々の行いの積み重ねを正そうとしている。
この考え方は、劉備の時代に急に生まれたものではない。もっと古い中国の思想にも、善や悪は少しずつ積み重なって人を形づくる、という見方がはっきりと書かれている。
たとえば『易経(えききょう)』の『繫辞下伝(けいじかでん)』には、善を積まなければ名を成すに足りず、悪を積まなければ身を滅ぼすに足りない、とある。そこでは、小人は小さな善を役に立たないとして行わず、小さな悪を害がないとしてやめないので、ついには悪が積もって隠せなくなると説いている。
つまり、悪、小なるを以て之を為すこと勿れという一句は、ただきびしく叱る言葉ではない。小さな行いを軽く見ると、人のくせや心の向きが変わり、その先で大きな結果を生む、という長い経験の上に立った教えなのである。
また、この故事成語は、反対側の句である善、小なるを以て為さざること勿れと合わせて覚えられることが多い。悪をしないだけでなく、小さな善も見送らずに行うべきだという形で、一つのまとまった教えになっている。
日本語としてこの言葉を使うときは、万引きのような明らかな悪事だけでなく、少しのごまかし、ほんの短いうそ、見つからなければよいという不正にも当てはまる。大きさではなく、悪を悪として扱う姿勢が問われているのである。
このように、この故事成語のもとには、病床の父が子に残した切実な戒めがあり、その背後には古くからの積み重ねの思想がある。小さな悪を甘く見ないことこそが、身を正し、人との信頼を守る第一歩だと教える言葉である。
「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の使い方




「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の例文
- 友だちの鉛筆を一本だけ黙って持ち帰るのは、悪、小なるを以て之を為すこと勿れに背く行いである。
- 家の手伝いをさぼるために小さなうそをつくのも、悪、小なるを以て之を為すこと勿れという戒めを地で行くようなものだ。
- 行事の募金箱から少額ならよいと思って硬貨を抜くのは、まさに悪、小なるを以て之を為すこと勿れで戒めるべき不正である。
- 仕事の記録を少しだけ書き換えて自分をよく見せる行為には、悪、小なるを以て之を為すこと勿れという言葉が重く当てはまる。
- 見つからないからと地域のごみ置き場に家庭ごみを規則外の時間に出すのは、悪、小なるを以て之を為すこと勿れを忘れたふるまいである。
- インターネットで人を傷つける短い悪口を書きこむことも、悪、小なるを以て之を為すこと勿れと考えれば軽く見てよいことではない。























