【ことわざ】
嵐の前の静けさ
【読み方】
あらしのまえのしずけさ
【意味】
暴風雨が来る前に一時あたりが静まり返ることから、変事や騒動が起こる直前に訪れる不気味な静けさ。


【英語】
・the calm before the storm(大きな騒ぎや困難の前の静かな時期)
・a lull before the storm(嵐や大きな動きの前の一時的な静けさ)
【類義語】
・山雨来たらんと欲して風楼に満つ(さんうきたらんとほっしてかぜろうにみつ)
・風雲急を告げる(ふううんきゅうをつげる)
【対義語】
・台風一過(たいふういっか)
「嵐の前の静けさ」の語源・由来
「嵐の前の静けさ」は、暴風雨の前に一時あたりが静まり返ることがある、という具体的な気象の印象から生まれた表現です。激しい風雨そのものではなく、その直前の妙な静まりをとらえ、そこから「大きな変事の前の不気味な沈黙」を表す言葉になっています。
英語には、古くから近い形の言い方がありました。『The Dumbe Knight』(1608年、Lewis Machin・Gervase Markham作として伝わる英国の戯曲)には、「there is a calm before the tempest」という一節が出てきます。ここでの tempest は storm に近い強い嵐を指し、のちに英語では “the calm before the storm” という形が広く用いられるようになりました。
この英語表現は、もとは嵐の直前の海や天候の穏やかさをいう言い方でしたが、早くから比喩にも広がりました。現在の英語でも、実際の天気だけでなく、激しい活動、口論、困難などの前にある静かな時期を表します。
日本語の「嵐の前の静けさ」は、明治期に西洋から入ってきた表現と考えられます。日本語では、末尾を「静けさ」とする形と「静寂」とする形がありましたが、今日では「静けさ」の形が広く使われています。
日本語のまとまった古い用例として、『東京灰燼記(とうきょうかいじんき)』(1923年・大正12年、大曲駒村著)に、「嵐の前の静けさのやうに」とする表現が出てきます。この用例では、家並みが森閑とした不気味な沈黙の中にある様子を重ねており、単なる静かな景色ではなく、災いや異変を思わせる静まりとして使っています。
また、『少年探偵長(しょうねんたんていちょう)』(1952年、海野十三著)にも、「嵐の前のしずけさだ」という形が出てきます。義眼の中に何も隠されていないことが分かり、しばらく誰も黙る場面で使われており、次の動きの前に場が張りつめる沈黙を表しています。
このように、言葉の流れには、暴風雨の前の静まりという具体的な感覚、西洋の言い方の受け入れ、日本語の用例の定着という段階があります。現在では、平穏そのものをほめる表現ではなく、静かすぎる状態の奥に、これから起こる騒動や変化の気配を読み取るときに使うことわざです。
「嵐の前の静けさ」の使い方




「嵐の前の静けさ」の例文
- 試合開始前の体育館は、応援の声が消えて、嵐の前の静けさに包まれていた。
- 社長の発表を待つ会議室には、嵐の前の静けさのような緊張が漂っていた。
- 兄弟げんかの直前、リビングが急に静まり返り、嵐の前の静けさだと母は感じた。
- 文化祭の開会直前、校庭のざわめきがふっと止まり、嵐の前の静けさになった。
- 大きな改革案が示される前の職場は、嵐の前の静けさのように落ち着かなかった。
- 記者会見が始まる直前、会場には嵐の前の静けさが広がっていた。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・大曲駒村『東京灰燼記』東北印刷出版部、1923年。
・海野十三『少年探偵長』ポプラ社、1952年。
・Gervase Markham・Lewis Machin『The Dumbe Knight』.1608年。
・Robert Dodsley編、W. Carew Hazlitt改訂『A Select Collection of Old English Plays, Fourth Edition』.1874〜1876年。























