【ことわざ】
鼬の無き間の貂誇り
【読み方】
いたちのなきまのてんほこり
【意味】
自分より強い者やすぐれた者がいない所で、いばることのたとえ。


【英語】
・when the cat’s away, the mice will play(上の者がいない間に、下の者が勝手にふるまうこと)
・in the country of the blind, the one-eyed man is king(まわりにすぐれた者がいないため、少し勝る者が大きく見えること)
【類義語】
・鳥なき里の蝙蝠(とりなきさとのこうもり)
・鼬の無き間の鼠(いたちのなきまのねずみ)
【対義語】
・能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす)
・実るほど頭を垂れる稲穂かな(みのるほどこうべをたれるいなほかな)
「鼬の無き間の貂誇り」の語源・由来
このことわざは、鼬(いたち)が貂(てん)を捕えるという古い見立てをもとにした言い方です。貂にとって恐い相手である鼬がいない間だけ、貂が安心していばるという発想から、強い者やすぐれた者がいない場所でだけ大きな顔をする人をたとえる表現になりました。
動物の関係を借りたたとえですが、意味の中心は動物そのものではありません。自分より上の相手がいるときには目立てない者が、その相手の不在をよいことに威張るという、人間社会の振る舞いを皮肉ることわざです。
古い用例として、『源平盛衰記』(14世紀前半ごろ成立、作者未詳)巻三十三に、「鼬(イタチ)のなき間(マ)の貂(テン)誇(ホコリ)とかやの様に」という形が出てきます。この用例では、すでに「鼬がいない間の貂の誇り」という比喩が、人の振る舞いを評する言い方として働いています。
この形では、「鼬」「貂」「誇り」という三つの要素が、はっきり残っています。つまり、強い相手の不在、弱い者のいばり、そして、そのいばりを冷ややかに見る目が、ことわざの中にまとまっています。
また、「貂誇(てんぽこり)」という短い形も用いられました。『杜詩続翠抄(としぞくすいしょう)』(1439年ごろ、江西龍派講)には、「いたちの無い間のてんほこりと云様に也」という用例があり、長いことわざをふまえた「てんほこり」という言い方が、中世の注釈の中でも通じる表現であったことが分かります。
「貂誇」は、もとは「鼬の無き間の貂誇り」の略として、自分より強い者がいない所でいばることを表しました。のちには、「大騒ぎすること」「馬鹿騒ぎ」という別の意味でも使われましたが、対象語である「鼬の無き間の貂誇り」の中心は、あくまで、強い者の不在を利用した威張りにあります。
このことわざには、「鼬の無き間の鼠」「鳥なき里の蝙蝠」といった近い表現があります。いずれも、すぐれた者や恐れるべき者がいない場所で、実力以上に大きくふるまう者をたとえる言い方です。
現在でも、このことわざは、単に「一番になる」という意味ではなく、「本当に強い相手がいないから威張っているだけだ」という批判をこめて使います。そこには、力のある人ほどむやみにいばらないという、逆の教訓も含まれているといえます。
「鼬の無き間の貂誇り」の使い方




「鼬の無き間の貂誇り」の例文
- 部長が出張でいない日だけ命令口調になる課長の態度は、鼬の無き間の貂誇りそのものだ。
- 優勝候補の選手が欠場した大会で急に威張り出すのは、鼬の無き間の貂誇りと言われても仕方がない。
- 兄が留守のときだけ家でいばる弟を見て、母は鼬の無き間の貂誇りだとたしなめた。
- 本当に実力のある先輩が卒業したとたん、自分だけがすぐれているようにふるまうのは鼬の無き間の貂誇りだ。
- 強い店が休業している間だけ客を集めて得意になるようでは、鼬の無き間の貂誇りにすぎない。
- 先生の前では静かなのに、先生が教室を出たとたんに威張る姿は、鼬の無き間の貂誇りだった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・『源平盛衰記』14世紀前半ごろ。
・江西龍派講『杜詩続翠抄』1439年ごろ。
・HarperCollins Publishers『Collins English Dictionary』。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』。























