【故事成語】
冠履は同じく蔵めず
【読み方】
かんりはおなじくおさめず
【意味】
賢者とそうでない者、また能力や役割の違う者を、同じ地位や扱いにしないこと。責任や役目に応じて、ふさわしく区別して扱うべきことのたとえ。


【英語】
・Oil and water don’t mix.(油と水は混ざらない、性質の違うものは一緒になりにくい)
【類義語】
・薫蕕器を同じくせず(くんゆううつわをおなじくせず)
【対義語】
・玉石混淆(ぎょくせきこんこう)
「冠履は同じく蔵めず」の故事
「冠履は同じく蔵めず」は、中国の古典『説苑(ぜいえん)』「談叢(だんそう)」に出てくる「冠履不同藏,賢不肖不同位」という句にもとづく故事成語です。これは、「冠と履は同じ所にしまわず、賢者と不肖の者は同じ地位に置かない」という意味です。
『説苑』は、前漢末の学者である劉向が編んだ書物で、君主を戒めるための故事や伝説、教訓を集めた二十巻の書です。現行の構成では、君道、臣術、尊賢、談叢などの篇に分かれています。
劉向は、前77年ごろから前6年まで生きた前漢の学者で、宮中の書物の整理や校訂にたずさわりました。『説苑』のほか、『新序』『列女伝』などの著作でも知られています。
「冠履」の「冠」は頭にかぶるもの、「履」は足にはくものです。二つは身につける物でありながら、置かれる位置が上と下に大きく分かれるため、古くから上下や尊卑、へだたりの大きいもののたとえにも使われました。
「蔵」は、物をしまっておくことを表します。したがって「冠履不同藏」は、冠と履を同じ場所にしまわないという、ごく具体的な動作から出た表現です。
『説苑』「談叢」では、この句のすぐ前に、よこしまな心をもつ者に便宜を与えてはならず、愚かな性質の者に鋭い道具を与えてはならない、という趣旨の句が並んでいます。その流れの中で、「冠履不同藏,賢不肖不同位」と述べ、人物の徳や能力に応じて、地位や役目を慎重に定めるべきことを説いています。
この句のあとには、官位が高い者ほど心配も深く、禄が多い者ほど責任も大きい、という内容が続きます。つまり、この言葉は単に人を分けるための言葉ではなく、重要な立場にはそれだけの徳と責任が必要だという政治的な教えとして置かれています。
日本語では、「冠履」が「上位と下位」「尊卑」を表す語として受け入れられました。古い用例として、『天草版金句集』(1593年)に「Quanri(クヮンリ) ザウヲ ヲナジュウ セズ」という形があり、早い時期からこの教訓句が日本語の中で読まれていたことが分かります。
漢文の「不同藏」は、直訳すれば「同じく蔵せず」となります。日本語のことわざとしては、「冠履は同じく蔵めず」という形で、漢文調の言い回しを保ちながら定着しました。
似た発想をもつ表現に、「薫蕕器を同じくせず」があります。香りのよい草と悪いにおいの草を同じ器に入れないというたとえで、志の高い者とそうでない者、善人と悪人とは同じ場所にいられないことを表します。
また、反対の発想に近いものとして、「玉石混淆」があります。これは、よいものと悪いもの、すぐれたものとつまらないものが入りまじっていることを表す言葉です。
現在この故事成語を使うときは、昔の身分差をそのまま認める言葉としてではなく、役割や責任にはふさわしい配置がある、という教えとして理解するとよいです。だれに何を任せるかを考えるとき、表面的な平等ではなく、力や責任に合った扱いをする大切さを表す言葉です。
「冠履は同じく蔵めず」の使い方




「冠履は同じく蔵めず」の例文
- 大切な役職を決めるときは、冠履は同じく蔵めずの考えで、経験と責任感をよく見る必要がある。
- 熟練した職人と見習いを同じ持ち場に置かず、冠履は同じく蔵めずで仕事を分けた。
- 大会の代表を選ぶ場面では、冠履は同じく蔵めずとして、実力と態度の両方を見て判断した。
- 会社の新しい計画では、冠履は同じく蔵めずに従い、難しい交渉を経験豊かな担当者に任せた。
- 学級委員を決める際、人気だけで選ばず、冠履は同じく蔵めずという考えを心に留めた。
- 責任の重い仕事と練習中の仕事を区別するのは、冠履は同じく蔵めずにかなう扱いである。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検 漢字ペディア』。
・劉向編『説苑』前漢。
・『天草版金句集』1593年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』Cambridge University Press.























