【ことわざ】
狐を馬に乗せたよう
【読み方】
きつねをうまにのせたよう
【意味】
落ち着きがないこと。また、話があいまいでつかみどころがなく、信用できないこと。


「狐を馬に乗せたよう」の語源・由来
「狐を馬に乗せたよう」は、狐が馬の背に乗っている、どこか不安定で落ち着かない姿をたとえにした言葉です。そこから、ぐらぐらと定まらない様子を表し、さらに、話があいまいで信用しにくいことも意味するようになりました。
この言葉の背景にある古い物語として、『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』(1120〜1140年ごろ成立・平安時代後期、編者未詳)の巻二十七第四十一話「高陽川狐変女乗馬尻語」があります。『今昔物語集』は、インド・中国・日本を舞台とする千余りの話を集めた説話集です。
その話では、仁和寺(にんなじ)の東にある高陽川のほとりに、夕暮れになると若い女が立っています。女は、馬に乗って京へ向かう人に、馬の後ろへ乗せてほしいと頼み、四、五町ほど進むと突然飛び降り、狐の姿になって鳴きながら走り去りました。
この出来事を聞いた若い滝口の武士は、自分なら狐を捕らえられると言い、女を馬に乗せ、縄で鞍(くら)に結び付けます。しかし、狐が生み出した人や車、明かりなどの幻に惑わされ、女を放した途端、すべてが消え、武士は暗い鳥部野に一人で取り残されました。
この話には、現代の「狐を馬に乗せたよう」という言い回しそのものは出てきません。しかし、狐が女に化けて馬へ乗り、人を惑わせるという場面には、「狐」「馬」「落ち着かない動き」「信用できない振る舞い」という、後のことわざにつながる要素がそろっています。
定着した言い回しの古い用例は、松江重頼が編んだ『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期)の巻二にあります。そこには、「きつねむまにのせたるごとし」と記されています。
当時の「むま」は、現在の「うま」に当たる表記です。また、「ごとし」は「〜のようだ」という比べ方を表すため、「きつねむまにのせたるごとし」は、現在の「狐を馬に乗せたよう」とほぼ同じ形と意味をもっています。
『毛吹草』に収められた段階では、馬の上で安定しない狐の姿を思わせる言葉として、すでに人の様子を評する決まった比喩になっていました。狐が人を惑わせる存在として語られてきたことも重なり、単に動きが落ち着かないだけでなく、話があいまいで、何を信じればよいか分からないという意味へと広がりました。
この表現は、短く「きつねうま」ともいいます。現在では、そわそわして態度の定まらない人や、話の内容がまとまらず、言うことをそのまま信用できない人や説明を表すことわざとして使われています。
「狐を馬に乗せたよう」の使い方




「狐を馬に乗せたよう」の例文
- 先生に事情を尋ねられた彼は、狐を馬に乗せたようにきょろきょろして、落ち着かなかった。
- 係の人の返事は狐を馬に乗せたようで、荷物がどこにあるのか最後まで分からなかった。
- 昨日と今日で説明が変わるとは、狐を馬に乗せたようで信用しにくい。
- その会社の計画は狐を馬に乗せたように内容が定まらず、契約を結ぶには不安が残った。
- 質問のたびに違う答えを返す代表者の発言は、狐を馬に乗せたようだった。
- 狐を馬に乗せたような説明では、会議の参加者を納得させることはできない。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・森正人校注『今昔物語集 五 新日本古典文学大系37』岩波書店、1996年。























