【故事成語】
琴瑟相和す
【読み方】
きんしつあいわす
【意味】
琴と瑟を合奏した音がよく調和するように、夫婦の仲が非常にむつまじいことのたとえ。


【類義語】
・比翼連理(ひよくれんり)
【対義語】
・琴瑟調わず(きんしつととのわず)
「琴瑟相和す」の故事
「琴瑟相和す」は、中国最古の詩集『詩経(しきょう)』「小雅(しょうが)・常棣(じょうてい)」の詩句にもとづく故事成語です。『詩経』は、西周初期の紀元前11世紀から東周中期の紀元前6世紀ごろまでに歌われた三百五編の詩を収め、のちに儒教の五経の一つとして重んじられました。
「常棣」は、家族の中でも、とりわけ兄弟の結び付きの大切さを歌った詩です。兄弟は家の中で争うことがあっても、外から危難が迫れば力を合わせることや、苦難が去ったあとは一族で酒宴を開き、仲よく楽しむことなどを、順に歌っています。
その終わりに近い一節に、「妻子好合、如鼓瑟琴。兄弟既翕、和楽且湛」とあります。「妻や子が仲よく結ばれているさまは、瑟と琴を奏でるようであり、兄弟もまた一つにまとまって、仲よく心から楽しむ」という意味です。
ここでいう「鼓」は、楽器を演奏することです。「琴」と「瑟」は、ともに古代中国の弦楽器で、「瑟」は琴に似た大型の楽器を指します。性質の異なる二つの楽器を一緒に奏で、その音色が美しく溶け合う様子を、家族が心を合わせる姿に重ねています。
『詩経』の「周南(しゅうなん)・関雎(かんしょ)」にも、「窈窕淑女、琴瑟友之」とあります。徳のある女性を迎え、琴と瑟を奏でて親しむという詩句で、琴瑟は古くから、男女が結ばれて和やかに過ごす場面と深く結び付いていました。
唐代の『毛詩正義(もうしせいぎ)』は、この一節について、琴と瑟の音が調和する姿は、人の心や思いが調和する姿に似ていると説いています。単に二つの楽器が同時に鳴るだけでなく、互いの音を生かしながら一つの音楽を作るところに、人間関係のたとえとしての意味があります。
原典の「常棣」では、「妻子」は妻と子どもを含む家族を表していますが、後代には、琴と瑟の調和を夫婦のむつまじさにたとえる用法が広まりました。唐末に范攄が著した『雲溪友議(うんけいゆうぎ)』には、「元公與柔之琴瑟相和」とあり、元稹と妻の裴柔之が仲むつまじく暮らしたことを、「琴瑟相和」の形で表しています。
日本では、「琴瑟」という言葉そのものが、奈良時代の漢詩集『懐風藻(かいふうそう)』(751年成立)の大石王の詩に出てきます。この段階では、実際の楽器である琴と瑟を指しており、古代中国の音楽文化とともに、言葉が日本へ伝わっていたことが分かります。
明治時代になると、正岡子規の『筆まかせ』(1884〜1892年)に、夫婦仲がよくないことを表す「琴瑟相調はず」という形が出てきます。さらに、夏目漱石の『吾輩は猫である』(1905〜1906年)には「琴瑟調和」とあり、琴瑟が夫婦関係を表す比喩として、日本語の文章にも定着していきました。
「琴瑟相和す」のほかに、「琴瑟調和す」「琴瑟調う」「琴瑟相和」「琴瑟の和」などの形も使われます。広く兄弟や友人の仲のよさを表す場合もありますが、現在は主として、二つの楽器の音が美しく重なり合うような、むつまじい夫婦仲をたたえる言葉として用いられています。
「琴瑟相和す」の使い方




「琴瑟相和す」の例文
- 祖父母は、琴瑟相和すという言葉にふさわしく、長い年月を支え合って暮らしてきた。
- 新郎新婦が末永く琴瑟相和すことを願い、参列者は温かな拍手を送った。
- 両親は琴瑟相和す仲で、難しい問題も二人でよく話し合って解決する。
- その夫妻は琴瑟相和す暮らしを守り、互いの仕事や考え方を尊重していた。
- 伝記には、王と后が琴瑟相和す関係を築き、国の安定に力を尽くしたと記されている。
- 結婚して六十年を迎えても琴瑟相和す二人の姿は、家族のよい手本となっている。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・『詩経』。
・孔穎達『毛詩正義』唐代。
・范攄『雲溪友議』唐末。
・『懐風藻』751年。
・正岡子規『筆まかせ』1884〜1892年。























