【故事成語】
軌を一にする
【読み方】
きをいつにする
【意味】
行き方、やり方、立場、方向などを同じくする。また、古くは国家が統一され、世の中の秩序が整うことを表す。


【英語】
・be aligned with one another.(互いに立場や方向を同じくする)
【類義語】
・揆を一にする(きをいつにする)
【対義語】
・袂を分かつ(たもとをわかつ)
「軌を一にする」の故事
「軌」は、車輪が通ったあとである轍(わだち)や、車の左右の車輪の間隔を表す字です。「軌を一にする」には、この二つの具体的な意味をもとに、「同じ道筋を進む」という意味と、「国の制度や秩序が統一される」という意味が生まれました。
国家の統一を表す古い例は、南朝宋の文人である謝荘が記した『為八座江夏王請封禅表』(457年)に出てきます。そこには、「車一其軌、書罔異文」とあり、車の規格は一つとなり、書かれる文字にも異なる形がないという意味です。車輪の間隔や文字が各地で統一されていることを、国全体が一つに治まっているしるしとして述べています。
『北史(ほくし)』(唐代、李延寿編)の「崔鴻伝」にも、「涼、朔同文、牂、越一軌」とあります。遠く離れた地方でも、文字や車の規格を同じくすることによって、広い地域が一つの政治のもとに治まったことを表しています。この段階の「一軌」は、単に車の通り道が同じというだけでなく、国家の制度や秩序が統一されることを意味していました。
一方、現在よく使われる「立場や方向を同じくする」という意味には、唐の文人、韓愈の『秋懐詩(しゅうかいし)』が深く関わっています。韓愈は、秋の夜に時の流れや人生の短さを思い、「浮生雖多途、趨死惟一軌」と詠みました。人生にはさまざまな道があっても、死へ向かう道筋はただ一つである、という意味です。
この詩における「一軌」は、一台の車が一つの轍を進むように、結局は同じ道筋をたどることを表しています。ここから、複数の人や物事が同じように進むことや、考え方、方針、立場を同じくすることを表す比喩へとつながりました。
日本語では、「軌を一にする」という現在に近い使い方が、芥川龍之介の小説『路上』(大正8年)に出てきます。作中には、「身綺麗な服装の胸へ小さな赤薔薇の造花をつけてゐる事は、いづれも軌を一にしてゐるらしかった」とあり、複数の人物の服装に共通した特徴があることを表しています。
この用例では、国家の統一ではなく、複数の人が同じような装いや傾向を示すという意味で使われています。中国の古い文章にあった「車の規格を一つにする」という意味から、「同じ道筋をたどる」、さらに「立場や方向を同じくする」という現在の用法へと、意味が広がったことが分かります。
なお、「軌を一にする」は、物事が単に同じ時に起こることを表す言葉ではありません。二つ以上の考え方、方針、発展の過程などが、同じ方向や道筋に沿って進む場合に用います。
このように、「軌を一にする」は、車輪の幅や、車の通った跡を同じくするという具体的な情景から生まれました。現在では、人や組織が同じ立場を取ること、または二つの物事が同じ方向に沿って進むことを表す故事成語として使われています。
「軌を一にする」の使い方




「軌を一にする」の例文
- 図書委員会と新聞委員会は、読書の楽しさを広めるという方針で軌を一にする。
- 二人の研究者の意見は、細かな違いはあっても、結論において軌を一にする。
- 地域の活動は、自然環境を守ろうとする市の政策と軌を一にするものだった。
- 会社の成長は、情報技術の急速な発達と軌を一にする形で進んだ。
- 物語の主人公の成長は、社会が大きく変わっていく過程と軌を一にする。
- 両団体は教育制度の見直しを求める点で軌を一にし、共同で提案書を提出した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000~2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・謝荘『為八座江夏王請封禅表』457年。
・韓愈『秋懐詩十一首』唐代。
・李延寿『北史』唐代。
・芥川龍之介『路上』1919年。























