【慣用句】
嘴が黄色い
【読み方】
くちばしがきいろい
【意味】
年が若く、経験が浅くて未熟である。若者や未熟な人をあざけっていう表現。


【英語】
・be green.(未熟で経験が浅い)
・be wet behind the ears.(若くて世間慣れしていない)
【類義語】
・口脇黄ばむ(くちわききばむ)
・あくちも切れぬ(あくちもきれぬ)
・乳臭い(ちちくさい)
【対義語】
・老練(ろうれん)
「嘴が黄色い」の語源・由来
「嘴が黄色い」は、鳥の雛の嘴や口の周りが黄色く見えることを、人間の若さや未熟さに重ねた表現です。巣の中の雛は、まだ自分で十分に餌を取ることができず、親鳥に養われています。その幼い姿から、経験が少なく、一人前になっていない人を「嘴が黄色い」と表すようになりました。
雛の黄色い口を幼さの象徴とする発想は、古くからありました。中国の前漢末に劉向が編んだ『説苑(ぜいえん)』の「敬慎」には、孔子が鳥を捕らえる者に、捕まえた鳥がなぜ「黄口」ばかりなのかと尋ねる場面があります。ここでの「黄口」は、嘴の黄色い若鳥を指しています。
日本でも、『性霊集(しょうりょうしゅう)』(835年ごろ成立・平安時代初期、空海の詩文を真済が編纂)に、「黄口」という言葉が出てきます。「黄口」は、もとは雛鳥の嘴が黄色いことや、そのような雛鳥を表し、後には、幼くて経験の浅い人をあざける意味でも用いられました。
ただし、中国の「黄口」がそのまま日本語の「嘴が黄色い」へ変化したと断定することはできません。両者は、雛の黄色い口を幼さや未熟さに結び付ける共通した比喩をもつ表現です。
日本語では、「嘴が黄色い」という形が現れるより前に、人の口の周りの色で若さを表す言い方が使われていました。『栄花物語(えいがものがたり)』(11世紀成立・平安時代後期)には、「さやうにくちわききばみたるぬしたち」とあります。「口脇黄ばむ」は、口の辺りにまだ黄色みが残っている姿から、年が若く、経験が乏しいことをあざける表現です。
さらに、『醒睡笑(せいすいしょう)』(1623年成立・江戸時代前期、安楽庵策伝著)には、「京にて口脇白き男」とあります。「口脇白し」は「口脇黄なり」ともいい、年若く、経験に乏しいことを表しました。黄色だけでなく白色を用いる形もありましたが、どちらも、口の周りに幼さが残る姿を捉えた言い方です。
現在の「嘴が黄色い」に直接つながる古い用例は、近松門左衛門の人形浄瑠璃『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』(1708年、大坂竹本座初演)に出てきます。その上巻には、「口ばしのきな小すずめが、家老なみにつらなり」とあります。
この「きな」は「黄な」、すなわち黄色いという意味です。「口ばしのきな小すずめ」は、嘴の黄色い幼い雀を表し、そのような未熟者が家老と同じように列に加わっていることを、あざけりを込めて述べています。若さそのものよりも、未熟な者が身分や実力にふさわしくない立場にいることを非難する用例です。
この用例では、まだ「口ばしのきな小すずめ」という具体的なたとえになっていますが、やがて鳥の部分が省かれ、「嘴が黄色い」という簡潔な言い回しとして定着しました。現在では、「まだ嘴が黄色い」「嘴の黄色い若者」などの形で、経験の浅い人を、一人前ではないとして軽んじる場合に用います。
そのため、「嘴が黄色い」は、若くても優れた人を、ただ年齢だけで表す言葉ではありません。経験不足や考えの幼さを指摘するだけでなく、相手を見下すニュアンスを伴うため、本人に向かって用いる際には注意が必要な慣用句です。
「嘴が黄色い」の使い方




「嘴が黄色い」の例文
- 入社したばかりの彼は、まだ嘴が黄色いのに、長年の仕事の進め方をすべて変えようとした。
- 嘴が黄色い若者の意見だと軽んじられたが、その提案には検討する価値があった。
- 祖父は、嘴が黄色い者に店を任せるのは早いと言い、孫にもう少し経験を積ませた。
- 彼女は自分がまだ嘴が黄色いと自覚し、先輩の技術を熱心に学んだ。
- 嘴が黄色い新人だからといって、最初から発言を退けるべきではない。
- 監督は選手たちを嘴が黄色いと叱ったが、失敗から学ぶ機会も与えた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・近藤いね子・高野フミ編『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・劉向編『説苑』前漢。
・真済編『遍照発揮性霊集』835年ごろ。
・『栄花物語』11世紀。
・安楽庵策伝『醒睡笑』1623年。
・近松門左衛門『傾城反魂香』1708年。























