【慣用句】
嘴を入れる
【読み方】
くちばしをいれる
【意味】
自分とは直接関係のない話や物事に、横から口出しをする。


【英語】
・poke one’s nose into other people’s business.(他人のことに余計な口出しをする)
・interfere in other people’s affairs.(他人の事柄に干渉する)
【類義語】
・口を出す(くちをだす)
・口を挟む(くちをはさむ)
・容喙する(ようかいする)
「嘴を入れる」の語源・由来
「嘴」は、もともと鳥のくちばしを指す言葉です。「くちばし」は「口端」、すなわち口の先という意味から生まれた呼び名で、鳥の口から前へ突き出た部分を表します。一方、古くは、鳥だけでなく、人や動物の「口」や「口先」を表す場合もありました。
『玉塵抄(ぎょくじんしょう)』(1563年・室町時代後期)には、「犬のくちばしの長をげんいんと云なり」とあり、「くちばし」が動物の口先を指す言葉として使われています。鳥の器官だけを表す言葉ではなく、前へ突き出た口や口先にまで意味が広がっていたことが分かります。
さらに、『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴作)には、「口ばしせらるる」という用例があります。この「口ばしする」は、ものを言うことや口をきくことを表しており、「くちばし」が人の発言と結びついて用いられていたことを示します。
この表現と深く関わる言葉に、「容喙(ようかい)」があります。「喙」はくちばしを表す漢字で、「容喙」は、当事者ではない人が横から口出しをすることを意味します。荻生徂徠の『徂徠集(そらいしゅう)』(江戸時代中期、元文元年序)には、「趣向不レ同、豈更容喙乎」とあり、考え方が異なる事柄に、さらに自分が口を差し挟むことはできない、という文脈で使われています。
「嘴を容れる」という形の古い用例は、寺門静軒の『江戸繁昌記(えどはんじょうき)』(1832〜1836年・江戸時代後期)にあります。この作品は、江戸市中の風俗を漢文調の文章で描いたもので、第二編に「娣、嘴を容れて曰く」と記されています。言葉の上では、会話の中へくちばしを差し入れて発言する様子を表しており、そこから、他人の話に横から割り込むという意味が読み取れます。
このころには、漢文調の「容喙」と、それを日本語の形にほどいた「嘴を容れる」とが、ともに口出しを表す言い方として使われていました。「人の会話や物事」を一つの領域に見立て、そこへ自分のくちばし、つまり口先を差し入れるという比喩です。
昭和4年に発表された岸田国士の戯曲『牛山ホテル(うしやまホテル)』には、「それは、われわれが嘴を容れるべき筋ぢゃないさ」とあります。ここでは、ある問題について、自分たちが意見を述べたり、干渉したりする立場にはない、という意味で用いられています。江戸時代の漢文調の言い方が、近代には会話の中でも使われる表現になっていたことが分かります。
現在は、本来の「容れる」のほか、分かりやすく「入れる」と書く「嘴を入れる」という形も使われます。「嘴を入れる」「嘴を容れる」のどちらも、自分とは直接関係のないことに、横から口出しをするという意味です。単に意見を述べるのではなく、頼まれていないのに割り込み、相手の話や行動に干渉するという、好ましくないニュアンスを伴うのが、この慣用句の特徴です。
「嘴を入れる」の使い方




「嘴を入れる」の例文
- 兄弟の相談に父が何度も嘴を入れるので、話がなかなかまとまらなかった。
- 当事者でもない彼が契約の話に嘴を入れるのは、出過ぎた行為だ。
- 母は兄弟のけんかにすぐ嘴を入れるのではなく、まず二人の話を聞いた。
- 委員長は、担当者の細かな作業にまで嘴を入れるべきではないと考えた。
- 友人の進路について、事情を知らないまま嘴を入れるのは控えるべきだ。
- 他社の人事にまで嘴を入れる発言は、多くの反発を招いた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『小学館プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・荻生徂徠『徂徠集』元文元年序。
・井原西鶴『好色一代女』岡田三郎右衛門、1686年。
・寺門静軒『江戸繁昌記』克己塾、1832〜1836年。
・岸田国士『牛山ホテル』1929年。























