【故事成語】
強将の下に弱卒無し
【読み方】
きょうしょうのもとにじゃくそつなし
【意味】
優れた指導者のもとでは、その感化や指導を受けて、部下もまた優れた力を発揮するというたとえ。


【英語】
・Like master, like man.(主人のあり方は、仕える者にも表れる)
【類義語】
・勇将の下に弱卒無し(ゆうしょうのもとにじゃくそつなし)
「強将の下に弱卒無し」の故事
「強将」は、力に優れた大将や将軍を指し、「弱卒」は、弱い兵士や頼りにならない部下を指します。強い大将に率いられた兵士たちは、その勇気や規律に感化されて力を発揮するため、弱い兵士はいないというのが、もとの具体的な意味です。
この表現の古い形は、中国北宋の禅僧である雪竇重顕(せっちょうじゅうけん、980~1052年)の言葉を集めた『明覚禅師語録』に出てきます。ある僧への問いに対する別の答えとして、「強将下無弱兵」と記されています。少なくとも11世紀前半には、すでにこの言い回しが使われていたことが分かります。
この時点での用例は、実際の軍隊について詳しく述べたものではなく、禅の問答の中で示された短い言葉です。しかし、「力のある者のもとには弱い者はいない」という考えを、強い将軍と兵士との関係によって表している点は、現在の意味とつながっています。
この言葉を、広く知られる形で記したのが、北宋の政治家・文学者である蘇軾です。蘇軾の短文「題連公壁」には、「俗語雲『強將下無弱兵』,真可信」とあります。「世間の言葉に、強い将軍のもとに弱い兵はいないというが、まことに信じられる」という意味です。
蘇軾は続けて、連公の子孫には物事に熱心でない者が一人もおらず、この寺もやがて盛んになるだろうと述べています。優れた人物の気風や働きは、その子孫や周囲の人々にも受け継がれるという意味で、「強將下無弱兵」を用いたのです。
ここで、蘇軾が「俗語」、すなわち世間で使われている言葉と明記していることは大切です。蘇軾が新しく作った表現ではなく、それ以前から人々の間に伝わっていた言い回しを、自分が目にした連公の一族に当てはめたことが分かります。
中国では、原文に近い「強將下無弱兵」のほか、「強將手下無弱兵」や「強將之下無弱兵」という形も使われるようになりました。「下」や「手下」は、将軍に従う者を示し、「弱兵」は、力や勇気の乏しい兵士を表します。
日本では、まず「弱兵」を用いた形が古くから使われています。松永貞徳の『戴恩記(たいおんき)』(1644年ごろ成立・江戸時代前期)には、「良将を一人えたれば、悦いさみて、一人当千の気となり、強将の下には弱兵なしとは此事也」とあります。よい大将を得た兵士たちが勇み立ち、一人で千人に当たるほどの気力をもった場面を、この言葉で表しています。
この用例では、将軍が優れているために、もともと強い兵だけが集まるというよりも、よい指導者を得た兵たちの士気が高まり、力強く戦うようになることを表しています。現在の「優れた指導者は、優れた部下や集団を育てる」という意味に、すでに近い使い方です。
江戸時代後期の曲亭馬琴による『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』(1807~1811年)には、「勇将の下、弱卒なし」という形が出てきます。「強将」を「勇将」に、「弱兵」を「弱卒」に替えていますが、表す内容は同じです。
明治時代には、尾崎紅葉の『金色夜叉(こんじきやしゃ)』(1897~1902年)でも、「強将の下弱卒を出さざる」という形が使われました。このころには、「強将」と「弱卒」を組み合わせる言い方も、日本語の中に定着していたことがうかがえます。
このように、「強将の下に弱卒無し」は、中国で伝わっていた「強い将軍は弱い兵を生まない」という言葉が、日本では「弱兵」「弱卒」、「強将」「勇将」などの形を取りながら受け継がれたものです。現在では、軍隊だけでなく、学校、スポーツ、職場などで、優れた指導者の影響によって部下や仲間が成長し、力強い集団となることを表します。
「強将の下に弱卒無し」の使い方




「強将の下に弱卒無し」の例文
- 新監督が選手の長所を引き出して連勝すると、強将の下に弱卒無しとはこのことだと評された。
- 優れた店長の指導によって新人まで生き生きと働く姿は、強将の下に弱卒無しを思わせる。
- 強将の下に弱卒無しというように、経験豊かな先生の教室からは多くの優秀な生徒が育った。
- 部長が率先して困難な仕事に取り組むため、強将の下に弱卒無しで、部下たちも力を尽くした。
- 強将の下に弱卒無しを体現するように、その消防隊は厳しい訓練を重ね、高い技術を身に付けていた。
- 町の合唱団は名指揮者を迎えて見違えるほど上達し、強将の下に弱卒無しという言葉が当てはまった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000~2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・雪竇重顕撰、惟蓋竺ら編『明覚禅師語録』北宋。
・蘇軾『東坡題跋』北宋。
・松永貞徳『戴恩記』1644年ごろ成立、1682年刊。
・曲亭馬琴『椿説弓張月』1807~1811年。
・尾崎紅葉『金色夜叉』1897~1902年。























