【ことわざ】
北に近ければ南に遠い
【読み方】
きたにちかければみなみにとおい
【意味】
一方に都合よくすれば、もう一方には都合が悪くなることのたとえ。また、あまりにも当たり前であることのたとえ。


【類義語】
・犬が西向きゃ尾は東(いぬがにしむきゃおはひがし)
・あちら立てればこちらが立たぬ(あちらたてればこちらがたたぬ)
「北に近ければ南に遠い」の語源・由来
「北」と「南」は、互いに反対の方角です。ある場所が北側に近くなれば、それだけ南側からは遠くなるという、位置と距離のごく単純な関係を、そのまま言葉にしたのが「北に近ければ南に遠い」です。
この表現には、二つの使い方があります。一つは、当然すぎて改めて言うまでもないことを、わざともっともらしく述べる使い方です。「犬が西向きゃ尾は東」や「雨の降る日は天気が悪い」と同じく、分かりきった道理をあえて口にするところに、軽いおかしみがあります。
「北に近けりゃ南に遠い」という縮まった形も用いられます。この形は、「雨の降る日は天気が悪い」「犬が西向きゃ尾は東」などと並ぶ、ことば遊びの趣が強い言い回しです。「近ければ」を「近けりゃ」と短くすることで、会話の中でも調子よく言える形になっています。
もう一つは、一方にとって都合のよい選択が、反対側にとっては不都合になるという使い方です。たとえば、施設を北側の住民が通いやすい場所へ移せば、南側の住民にとっては遠くなります。このように、片方を便利にすれば、もう片方には不便が生じる関係を表します。
この意味では、「あちら立てればこちらが立たぬ」に近い考え方をもちます。一方の希望をかなえようとすると、他方の希望がかなわず、両方を同時に満足させることが難しい場面に当てはまります。
二つの使い方は、別々に生まれたものではなく、どちらも北と南の位置関係から成り立っています。「北へ近づけば南から遠ざかる」という事実があまりにも当然であるため、分かりきったことのたとえになります。同時に、北側を優先すれば南側には不利になるため、片方を立てれば他方が立たないことのたとえにもなります。
「犬が西向きゃ尾は東」は、犬が西を向けば、尾が東を向くという当然の姿を表します。これに対して、「北に近ければ南に遠い」は、当然のことを表すだけでなく、二つの側の利害や便利さが両立しにくい場合にも使えるところに特徴があります。
このことわざを理解する鍵は、北と南という反対の方角と、一方に近づけば他方から遠ざかるという距離の関係にあります。そこから、当然の道理をおもしろく言い表す使い方と、どちらかを優先すれば反対側に不都合が生じることを示す使い方が生まれました。
「北に近ければ南に遠い」の使い方




「北に近ければ南に遠い」の例文
- 運動会の救護テントを北門寄りに移せば南側の席から遠くなり、北に近ければ南に遠いという結果になる。
- 一方の地域に便利な場所へ病院を建てれば、反対側の住民には通いにくく、北に近ければ南に遠いという道理が表れる。
- 兄の希望を優先すれば妹の予定が崩れるため、父は北に近ければ南に遠いと頭を抱えた。
- 開発部に予算を厚く配れば営業部の取り分が減り、北に近ければ南に遠いという難しい判断を迫られた。
- 海外支社に合わせた会議時刻は本社では深夜となり、北に近ければ南に遠いを思わせた。
- 当たり前の説明を長々と聞いた彼は、北に近ければ南に遠いような話だと苦笑した。
主な参考文献
・小川環樹・西田太一郎・赤塚忠・阿辻哲次・釜谷武志・木津祐子編『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA、2017年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・時田昌瑞「ことわざの華、〈飾りことわざ〉考―その新たな創出へ―」『明治大学教養論集』通巻525号、2017年。
・林伸一「四字熟語と日本語の慣用句の語順について―『東西南北』・『前後左右』・『表裏一体』など―」『山口国文』第41号、2018年。























