【慣用句】
顔色をうかがう
【読み方】
かおいろをうかがう
【意味】
相手の表情や顔つきから、機嫌や心の動きを読み取ろうとすること。相手の反応を気にして、言葉や行動を控えめにする意味でも用いる。


【英語】
・study someone’s facial expression.(相手の表情を注意して見る)
・walk on eggshells.(相手を怒らせないよう慎重に振る舞う)
【類義語】
・顔色を見る(かおいろをみる)
・鼻息を窺う(びそくをうかがう)
・機嫌を取る(きげんをとる)
【対義語】
・我を通す(がをとおす)
「顔色をうかがう」の語源・由来
「顔色」は、はじめから一つの意味だけをもつ言葉ではありません。古い用法では、文字どおり顔の色あい、血色を表し、『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代)巻五にも、顔の色つやに関わる漢語として「顔色」が出てきます。
その一方で、「顔色」は早くから、心情(しんじょう)の変化が表れた顔の様子を表す言葉としても使われました。平安時代後期の記録『台記(たいき)』康治元年(1142)十月十五日の条には、人の顔つきから気持ちを受け取る用法につながる例が出てきます。
和語の「かおいろ」でも、平安時代の歴史物語『栄花物語(えいがものがたり)』(1028〜1092年ごろ成立、平安時代)に、顔の色あいを表す例があります。さらに、室町時代の『論語抄(ろんごしょう)』には、親を思う心によって子の「顔色」がやわらぐという内容が出てきて、表情や顔つきと心の動きが結びついていたことが分かります。
「うかがう」は、古くは「うかかう」ともいわれ、ひそかに様子をのぞき見ることや、それとなく様子を探ることを表しました。『日本書紀』(720年成立、奈良時代)には、戸口からそっとのぞく意味に近い例があり、『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立、平安時代中期)には、道の様子を探らせる意味の例が出てきます。
この「顔色」と「うかがう」が結びつくと、ただ顔の色を見るだけでなく、顔の様子から相手の心を探るという意味になります。現在の「顔色をうかがう」は、相手の表情から心の動きを知ろうとすること、また相手の機嫌のよしあしを見ることを表します。
古い段階では、現代の「うかがう」だけでなく、「見る」「読む」に近い形も同じ発想で使われました。近松門左衛門作の浄瑠璃(じょうるり)『心中万年草(しんじゅうまんねんそう)』(1710年・江戸時代前期初演)には、「不審そふ成かほ色を九兵衛見て取」という例があり、不審そうな顔つきから人物の心の動きを読み取る場面で「かほ色」が使われています。
『心中万年草』は、高野山吉祥院の寺小姓成田久米之介と雑賀屋の娘お梅との心中事件をもとにした世話物(せわもの)です。この作品に出る「かほ色を見て取」という形は、表情を手がかりにして相手の内心を察するという、現在の「顔色をうかがう」に近い考え方をよく示しています。
直接「顔色を伺う」という形は、二葉亭四迷の小説『浮雲』(1887〜1889年・明治時代、二葉亭四迷著)に出てきます。『浮雲』は、明治社会の中で挫折していく青年を言文一致体で描いた近代小説で、その一節に「窃かに叔母の顔色を伺って見れば」という用例があります。
この用例では、「顔色」を「がんしょく」と読ませながら、相手の表情や機嫌をそっと探る意味で使っています。一方、現代の日常語では「顔色」を「かおいろ」と読む形が広く用いられ、「顔色を見る」「顔色を読む」とともに、「顔色をうかがう」が定着しています。
表記には「窺う」と「伺う」があります。「窺う」は、すきまからひそかに見る、様子を探り調べる、気配から推し量るという意味をもつため、「顔色を窺う」と書くと、相手の表情をそっと探るニュアンスがはっきりします。
現在の「顔色をうかがう」は、相手を思いやって反応を見る場合にも使われますが、必要以上に相手の機嫌を気にして、自分の考えを言えなくなる場合にもよく使われます。もとは顔の色や表情を見る具体的な行為から、相手の心や立場を読み取ろうとする言い方へ広がった慣用句です。
「顔色をうかがう」の使い方




「顔色をうかがう」の例文
- 新入社員は上司の顔色をうかがうばかりで、会議中に自分の意見を言えなかった。
- 妹は母の顔色をうかがいながら、壊した花瓶のことを切り出した。
- クラス全員が先生の顔色をうかがうようになり、授業中に質問が出にくくなった。
- 店員は客の顔色をうかがうだけでなく、必要な説明を落ち着いて伝えた。
- 父の機嫌が悪い日には、家族が顔色をうかがうように小声で話した。
- 社長の顔色をうかがう会議では、会社の問題点が表に出にくい。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・山田美妙評注『日本浄瑠璃叢書 近松門左衛門著作集 巻3』明法堂、1894年。
・近松門左衛門『心中万年草』1710年。
・二葉亭四迷『浮雲』1887〜1889年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























