【ことわざ】
聞いて極楽見て地獄
【読み方】
きいてごくらくみてじごく
【意味】
話に聞いていたときにはすばらしいと思えたものが、実際に自分の目で見るとひどい状態であること。また、人から聞いた話と現実との間に大きな違いがあること。


【類義語】
・聞いて千金見て一文(きいてせんきんみていちもん)
・見ると聞くとは大違い(みるときくとはおおちがい)
「聞いて極楽見て地獄」の語源・由来
「聞いて極楽見て地獄」は、人づてに聞いて思い描いた姿と、自分の目で確かめた現実との大きな隔たりを、「極楽」と「地獄」という正反対の言葉によって表したことわざです。ここでの「聞く」は、人から話を伝え聞くことを、「見る」は、自分自身で実際の様子を知ることを指します。
「極楽」は、もともと仏教で、阿弥陀仏(あみだぶつ)のいる苦しみのない安楽な世界を指します。そこから、心配や悩みがなく、この上なく楽しい状態や場所のたとえにも使われるようになりました。一方の「地獄」は、罪を犯した者が罰や苦しみを受ける世界を指す言葉です。
この二つを並べることで、単に「少し違っていた」という程度ではなく、聞いた印象は最上の世界であったのに、目の前の現実は最悪の世界であったという、非常に大きな落差を表しています。「聞いて」と「見て」、「極楽」と「地獄」がそれぞれ対になり、短い言葉の中にも、意味がはっきりと伝わる形になっています。
聞いた話と、実際に見た姿との違いを表す考え方は、このことわざが現在の形で定着する以前からありました。『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期、松江重頼編)巻二には、「見ると聞くとは大違い」につながる「みるときくと」という形が収められています。
さらに、『野白内証鑑(やはくないしょうかがみ)』(1710年・江戸時代中期、江島其磧著)にも、「見ると聞くとは大違い」の古い用例があります。この段階では、「極楽」と「地獄」を用いた形ではありませんが、人から聞いた評判と実際の姿とは同じでないという発想が、江戸時代の早い時期から言い表されていたことが分かります。
現在の「聞いて極楽見て地獄」という形は、太田全斎が著した『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期)に収められています。『諺苑』は、当時使われていた俗語や俗諺(ぞくげん:世間で言い伝えられることわざ)を集め、いろは順に並べて、意味や出典を示した全七巻の国語辞書です。
この収録から、十八世紀末には、「聞いて極楽見て地獄」が、人々の間で通用する一つのことわざとして定着していたことが分かります。「見ると聞くとは大違い」という一般的な言い方に、「極楽」と「地獄」の鮮やかな対照を加えることで、期待が失望へ変わる様子を、いっそう強く印象づける表現となっています。
同じ意味を表す「聞いて千金見て一文」では、聞いたときには千金もの値打ちがあるように思えたものが、実際には、わずか一文ほどの価値しかなかったという形で、評判と実物との差を表します。「聞いて極楽見て地獄」は、金額の差ではなく、安楽の極みと苦しみの極みとを対比させた言い方です。
明治42年、すなわち1909年に発表された永井荷風の小説『すみだ川(すみだがわ)』にも、このことわざが出てきます。役者を志す少年の長吉に対し、伯父が舞台生活の厳しさを説く場面で、「聞いて極楽見て地獄の譬を引き」と記されています。
伯父は、舞台の世界が外からは華やかに思えても、実際には成功が難しく、生活にも多くの苦労があることを、このことわざによって伝えています。ここでは、遠くから想像した華やかな世界と、その中で暮らす者が味わう厳しい現実との違いを表す言葉として使われています。
このように、「聞いて極楽見て地獄」は、聞いた評判だけで物事を判断すると、現実との大きな違いに驚くことがあるという経験を表してきました。現在も、旅行先、店、商品、職場、住まいなどが、宣伝や評判では魅力的だったのに、実際には期待を大きく裏切る状態であったときに用いられます。
「聞いて極楽見て地獄」の使い方




「聞いて極楽見て地獄」の例文
- 評判の宿へ泊まったが、部屋は狭く食事も粗末で、聞いて極楽見て地獄だった。
- 人気の遊園地だというので出かけたものの、休止中の乗り物ばかりで、聞いて極楽見て地獄となった。
- 高収入で働きやすい職場だと聞いて入社したが、実情は聞いて極楽見て地獄だった。
- 写真では美しい海岸に思えたのに、現地はごみが散乱して、聞いて極楽見て地獄の有様だった。
- 設備の整った寮だという説明を信じていた学生たちは、古びた建物を見て、聞いて極楽見て地獄だと落胆した。
- 宣伝の言葉だけを信じると、聞いて極楽見て地獄という結果になりかねない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・浄土宗大辞典編纂実行委員会編『新纂浄土宗大辞典』浄土宗、2016年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・江島其磧『野白内証鑑』1710年。
・永井荷風『すみだ川』1909年。























