【ことわざ】
悪縁契り深し
【読み方】
あくえんちぎりふかし
【意味】
悪い縁ほど結びつきが強く、なかなか断ち切れないということ。好ましくない人間関係や、離れようとしても離れにくい関係についていう。


【英語】
・Bad ties are hard to break.(悪い縁は断ち切りにくい)
・A bad relationship is hard to get out of.(悪い関係から抜け出すのは難しい)
【類義語】
・腐れ縁は離れず(くされえんははなれず)
【対義語】
・金の切れ目が縁の切れ目(かねのきれめがえんのきれめ)
「悪縁契り深し」の語源・由来
「悪縁契り深し」は、「悪縁」と「契り」と「深し」が結びついた言い方です。「悪縁」は、もとは悪い結果をもたらす条件や、好ましくない人間関係を指し、「契り」は、約束だけでなく、前世から定まった宿縁や因縁も表します。
「縁」は、仏教で、ある結果を生じさせる間接的な原因や条件を表す言葉として用いられてきました。そのため、このことわざの「縁」は、ただの出会いではなく、人をある方向へ引いていくつながりを含んでいます。
古い用例として重要なのは、『往生要集(おうじょうようしゅう)』(985年成立・平安時代中期、源信著)に出てくる「悪縁」です。この書物は、極楽往生の道を説いた仏教書で、日本の浄土教に大きな影響を与えました。
『往生要集』には、「煩悩内催、悪縁外牽」という形で「悪縁」が出てきます。これは、心の内では煩悩が人を動かし、外からは悪い条件が人を引っぱるという意味で、ここでの悪縁は、まだ主に仏教的な「悪い条件」を指しています。
一方、「契り」は、古くから深い約束や、前世からのつながりを表す言葉として用いられました。『竹取物語』(9世紀末〜10世紀初め成立)には前世からの約束としての「契り」が出てきて、『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立)にも運命的なつながりとしての「ちぎり」が用いられています。
また、『枕草子(まくらのそうし)』(10世紀末成立、清少納言著)には、「契りふかくてかたらふ人」という言い方が出てきます。ここでは、人と人との結びつきが深いことを「契り深く」と表しており、後の「契り深し」という言い方につながる感覚を読み取ることができます。
近世に入ると、「悪縁」は人間関係、とくに離れにくい男女の縁を指す言葉としても使われるようになります。『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年刊、イエズス会宣教師数名の共編)には、結んではいけない縁、好ましくない結びつきとしての「悪縁」が示されています。
この変化をよく示す用例に、『生玉心中(いくたましんじゅう)』(1715年・江戸時代中期、近松門左衛門作)があります。この人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)は、遊女おさがと茶碗屋の嘉平次が、借金や名誉の傷から悲劇へ向かう筋立てをもつ作品です。
『生玉心中』には、「かかるちぎりの悪縁と、返らぬ道をたどり行」という表現が出てきます。ここでは「ちぎり」と「悪縁」が近い形で結びつき、離れにくく苦しい男女の縁を表す言葉として使われています。
さらに、式亭三馬の滑稽本(こっけいぼん)『浮世風呂(うきよぶろ)』(1809〜1813年刊・江戸時代後期)には、「爰であふも他生の縁だ」「悪縁ぢゃアごぜへませんかっ」というやり取りが出てきます。銭湯に集まる庶民の会話を描いた作品の中で、偶然の出会いを前世からの縁としてとらえつつ、それを軽く「悪縁」と言い返す言い方が使われています。
このように、「悪縁」は、仏教的な悪い条件を表す段階から、好ましくないのに切れにくい人間関係を表す段階へ広がりました。「契り」は、約束や前世からの深いつながりを表し、その二つが重なることで、悪い縁ほど妙に強く続いてしまうということわざの形が整っていきました。
現在の「悪縁契り深し」は、悪い関係を運命だから仕方がないと認める言葉ではありません。むしろ、よくない縁ほど断ち切りにくいものだから、関係の深まり方に気をつける必要がある、という戒めを含むことわざです。
「悪縁契り深し」の使い方




「悪縁契り深し」の例文
- やめると決めた悪い仲間づきあいにまた誘われ、悪縁契り深しを思い知らされた。
- 別れた相手と仕事先で何度も顔を合わせ、悪縁契り深しだと感じた。
- 問題ばかり起こす取引先と契約が続き、悪縁契り深しの関係になっている。
- 家族が注意しても危ない遊び仲間から離れられず、悪縁契り深しという言葉が当てはまる。
- 迷惑をかけられている相手から何度も頼られ、悪縁契り深しで縁を切る機会を失った。
- 悪縁契り深しと言うように、よくない関係ほど早いうちに距離を置く必要がある。
主な参考文献
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・源信『往生要集』985年。
・イエズス会宣教師数名編『日葡辞書』1603〜1604年。
・近松門左衛門『生玉心中』1715年。
・式亭三馬『浮世風呂』1809〜1813年。























