【ことわざ】
暗夜の礫
【読み方】
あんやのつぶて
【意味】
暗い夜に飛んでくる小石のように、不意に受ける防ぎようのない襲撃。また、当たるかどうか分からないこと、効き目や目当てのないことのたとえ。


【英語】
・a bolt from the blue(突然起こる思いがけない出来事)
・a shot in the dark(根拠の乏しい当て推量、成功の望みが小さい試み)
【類義語】
・闇夜の礫(やみよのつぶて)
・闇夜の鉄砲(やみよのてっぽう)
・闇に鉄砲(やみにてっぽう)
【対義語】
・百発百中(ひゃっぱつひゃくちゅう)
「暗夜の礫」の語源・由来
「暗夜」は暗い夜、「礫」は投げられる小石を指します。このことわざは、暗い夜にどこからか小石が飛んでくる場面をもとにしています。受ける側から見れば、どこから来るか分からないため避けにくく、防ぎようのない急な襲撃のたとえになります。
一方で、投げる側から見れば、暗い夜に小石を投げても、目標に当たるかどうか分かりません。そのため「暗夜の礫」は、当たるか当たらないかおぼつかないこと、効き目のないこと、目当てのつかないことのたとえとしても使われます。一つの情景から、受ける側の恐ろしさと、投げる側の当てずっぽうさという二つの意味が生まれているところに、このことわざの特色があります。
この発想と近い言い方は、江戸時代前期の俳諧作法書『世話尽(せわづくし)』(1656年、皆虚編)にも関わります。『世話尽』は、俗語や世話を集めた俳諧の手引きとして作られた書物で、「闇に鉄砲」系の表現は、暗い所で目標も定めずに撃つような、当てずっぽうの行為を表す言い方として扱われています。
江戸時代の浮世草子『傾城色三味線』(1701年)には、「むしゃうやみに鉄炮はなつごとく、出るままの悪口」という形が出てきます。これは、むやみに暗闇へ鉄砲を撃つように、目当てもなく悪口を言い散らす様子を表しています。ここでは「闇」と「鉄砲」の組み合わせが、狙いの定まらない行為を説明する比喩として働いています。
その後、「闇夜の鉄砲」という形も用いられました。談義本『根無草』(1763〜1769年)には、「正真の闇夜の鉄炮にて、あてどもなく」という例があり、まさに「あてどもなく」、つまり目当てがないことを表しています。「暗い中で放つもの」が「鉄砲」であっても「礫」であっても、見えないために狙いが定まらないという考え方は共通しています。
「礫」を用いた近い形としては、『鶉衣(うずらごろも)』(1727〜1779年・江戸時代中期、横井也有著)に「行衛もしらぬ闇の夜の礫(ツブテ)」という表現が出てきます。ここでは、子どものままごとに砕かれた物が、行方も分からないものになってしまう文脈で使われています。暗い夜に投げられた小石のように、どこへ行ったか分からなくなるものを表しているのです。
このように、「闇」「夜」「鉄砲」「礫」を組み合わせた言い方は、江戸時代から、目当てのない行為や、行方の分からないものを表す比喩として使われてきました。その中で「暗夜の礫」は、暗い夜に飛んでくる小石という情景をより強く前に出し、不意に受ける防ぎようのない襲撃という意味もはっきり表すようになったといえます。
現在では、「暗夜の礫」は「あんやのつぶて」と読み、不意の襲撃や防ぎようのないことを表すほか、当てずっぽうで効き目のないことを表すことわざとして用いられます。暗闇の中で小石が飛んでくるという、見えず、避けにくく、当たるかどうかも分からない場面が、現在の二つの意味につながっています。
「暗夜の礫」の使い方




「暗夜の礫」の例文
- 会議で突然責任を押しつけられ、彼にとっては暗夜の礫のような出来事だった。
- 根拠のないうわさが広まり、店は暗夜の礫を受けたような損害をこうむった。
- 相手の事情を知らずに意見をぶつけても、暗夜の礫にすぎない。
- 何の予告もない契約の打ち切りは、会社にとって暗夜の礫だった。
- 証拠もなく犯人を決めつけるのは、暗夜の礫のようなものだ。
- 突然の非難を浴びせられた彼女は、暗夜の礫にあったように言葉を失った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・皆虚編『世話尽』1656年。
・『傾城色三味線』1701年。
・横井也有『鶉衣』1727〜1779年。























