【ことわざ】
悪貨は良貨を駆逐する
【読み方】
あっかはりょうかをくちくする
【意味】
同じ名目価値をもつ貨幣のうち、実質価値の低い貨幣ばかりが使われ、実質価値の高い貨幣が市場から消えていくこと。転じて、質の低いものや悪いものが広まり、質の高いものやよいものを押しのけること。


【英語】
・Bad money drives out good.(悪い貨幣がよい貨幣を追い出す)
【類義語】
・グレシャムの法則(ぐれしゃむのほうそく)
「悪貨は良貨を駆逐する」の語源・由来
「悪貨は良貨を駆逐する」は、もとは貨幣の流通についての法則を言い表した言葉です。同じ額面で通用する二種類の貨幣があり、一方は金や銀などの含有量が多く、もう一方は含有量が少ない場合、人々は価値の高い貨幣を手元にしまい、価値の低い貨幣を支払いに使おうとします。その結果、実際の市場には価値の低い貨幣ばかりが残ることになります。
この考えを理解するには、「名目価値」と「実質価値」の違いが大切です。名目価値とは、貨幣に刻まれた額面のように、社会の中で決められた表向きの価値です。実質価値とは、その貨幣に含まれる金属そのものの価値です。額面が同じなら、支払いに使うときの扱いは同じでも、持っている人にとっては、金属としての価値が高いほうを手元に残したくなります。
この法則は、16世紀イギリスの財政家トマス・グレシャムの名と結びついています。グレシャムは、エドワード6世やエリザベス1世に仕えた財政家・貿易商で、貨幣の改鋳や王立取引所の設立にも関わった人物です。
グレシャム自身は、1558年、エリザベス1世に宛てた書簡の中で、質のよい貨幣と質の悪い貨幣が同時に流通しにくいことを述べています。当時のイギリスでは、ヘンリー8世やエドワード6世の時代の貨幣改悪によって、銀貨の金属価値が大きく下がっており、よい貨幣が国内から消えていく問題がありました。
ただし、「グレシャムの法則」という名は、グレシャム本人が付けたものではありません。19世紀の経済学者ヘンリー・ダニング・マクラウドが、1858年の著作の中で、悪い貨幣がよい貨幣を流通から追い出す傾向をグレシャムの名に結びつけたことから、この名称が広まりました。
この現象そのものは、グレシャムよりも前から知られていました。軽くなった貨幣、混ぜ物の多い貨幣、すり減った貨幣が、それより価値の高い貨幣と同じ額面で扱われると、人々は価値の高い貨幣をしまい込み、価値の低い貨幣を日々の支払いに回すようになります。古代や中世にも似た考えがありましたが、後世にグレシャムの名で整理され、経済の法則としてよく知られるようになりました。
日本語では、「悪貨は良貨を駆逐す」という形でも用いられました。中里介山『大菩薩峠』(大正2年から昭和16年にかけて連載)の「恐山の巻」には、人間社会でも悪い者が勢いを増し、よい者が隠れてしまうという文脈で、この言葉が出てきます。貨幣の法則を、人や文化のあり方にたとえて用いる広がりが、この段階でよく分かります。
現在の「悪貨は良貨を駆逐する」は、貨幣そのものの話だけでなく、質の低いものが広まり、質の高いものが見えにくくなる状況を表すことわざとして使われます。ただし、単に「悪いものがある」という意味ではありません。悪いものが広く使われたり受け入れられたりすることで、よいものが押しのけられる、という動きまで含んでいる点が大切です。
「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方




「悪貨は良貨を駆逐する」の例文
- 同じ額面なら軽い銀貨ばかりが支払いに使われ、悪貨は良貨を駆逐するという現象が起こる。
- 根拠のないうわさが広まると、まじめな情報が読まれにくくなり、悪貨は良貨を駆逐する。
- 安さだけを売りにした粗悪な商品が市場を占め、悪貨は良貨を駆逐する形になった。
- 努力して作った作品が雑な模倣に押しのけられ、悪貨は良貨を駆逐すると思わされた。
- 職場で手抜きが黙認されると、誠実な人ほど去ってしまい、悪貨は良貨を駆逐する。
- 評価の基準がゆるむと、悪貨は良貨を駆逐するように、質の高い研究が目立ちにくくなる。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・Encyclopaedia Britannica『Gresham’s law』Encyclopaedia Britannica。
・George Selgin『Gresham’s Law』EH.Net Encyclopedia。























