【ことわざ】
狐と狸
【読み方】
きつねとたぬき
【意味】
悪賢く、油断のできない者同士。


【英語】
・two sly characters outfoxing each other.(ずる賢い者同士が互いに出し抜こうとすること)
【類義語】
・狐と狸の化かし合い(きつねとたぬきのばかしあい)
・同じ穴の狢(おなじあなのむじな)
「狐と狸」の語源・由来
「狐と狸」は、特定の一つの昔話や歴史上の出来事から生まれたものではありません。狐も狸も人に化けたり、人を惑わせたりするという、古くからの伝承を土台とした言い方です。二匹を並べることによって、どちらも悪知恵が働き、簡単には本心を明かさない者同士を表します。
狐は、日本の古い物語の中で、早くから人をだます者のたとえとされてきました。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立、平安時代中期、紫式部著)の「夕顔」には、「いづれかきつねなるらんな」という言い方が出てきます。ここでは動物そのものではなく、人を欺く者を狐にたとえており、狐と悪賢さを結び付ける考え方が、平安時代にすでに表れていたことが分かります。
狐と狸を一組にした「狐狸(こり)」という言葉も、古くから使われてきました。『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』(1060年ごろ成立、平安時代中期、藤原明衡編)に収められた慶滋保胤の「池亭記」には、荒れた場所にすむ動物として「狐狸」が出てきます。この段階では、狐と狸という二種類の動物を並べた、具体的な意味をもつ言葉です。
やがて「狐狸」は、人をだまし、ひそかに悪事を働く者を表すようになります。慈円が著した『愚管抄(ぐかんしょう)』(1220年ごろ成立、鎌倉時代前期)には、人間を「狐狸」と呼ぶ用例があります。これは、狐と狸の組み合わせが、単なる動物の名から、油断のできない悪賢い人物のたとえへと移っていったことを示す古い例です。
狸についても、鎌倉時代には、化ける動物としての姿が物語に書かれています。『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』(13世紀前半成立、編者未詳)には、「たぬきを射害し、其ばけをあらはしける也」とあり、人に化けていた狸が正体を現す話が収められています。こうした説話を通して、狸も狐と同じように、人を惑わせる存在として広く知られるようになりました。
狐と狸が、互いに化ける腕を競う昔話も各地に伝わっています。昭和期に採録された広島県・鳥取県・佐賀県・兵庫県などの伝承には、狐と狸が化け比べをし、本物の大名行列や猟師を相手の仕業だと思い込んで失敗する話や、女性や食べ物に化けて相手をだまそうとする話があります。どちらも化ける力をもちながら、自分もまた相手にだまされかねないという筋が、繰り返し語られてきました。
こうした伝承から、「狐と狸の化かし合い」という長い形では、悪賢い者同士が互いにだまし合うことを表します。一方、「狐と狸」だけの場合は、必ずしも実際にだまし合っている場面に限らず、どちらも抜け目がなく、油断のできない人物であることに重点が置かれます。
このように、「狐と狸」は、狐と狸を人を化かす動物とみなした長い伝承と、両者を悪賢い人物にたとえる古い用法とが重なって定着したことわざです。現在では、似た者同士というだけでなく、とくに知恵や策略をめぐらし、相手に簡単には手の内を明かさない者同士を評する言葉として使われます。
「狐と狸」の使い方




「狐と狸」の例文
- 交渉の席に現れた二人の古参経営者は、どちらも本心を明かさない狐と狸だった。
- 互いに偽の情報を流して出方を探る二人は、まさに狐と狸だ。
- 両陣営の交渉役は狐と狸で、会談は腹の探り合いに終始した。
- その小説では、抜け目のない商人と悪知恵の働く役人が狐と狸として描かれている。
- 父は、値段を少しでも有利にしようと探り合う二人を狐と狸だと評した。
- 秘密の計画を互いに隠していた二人の悪党は、最後まで狐と狸のままだった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Electronic Dictionary Research and Development Group『JMdict』
・紫式部『源氏物語』1001〜1014年ごろ。
・藤原明衡編『本朝文粋』1060年ごろ。
・慈円『愚管抄』1220年ごろ。
・『宇治拾遺物語』13世紀前半成立。
・国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」。























