【慣用句】
蜘蛛の子を散らす
【読み方】
くものこをちらす
【意味】
大勢の人が、驚いたり追われたりして、一斉に四方八方へ逃げ散ることのたとえ。


【英語】
・scatter in all directions.(四方八方へ散り散りになる)
【類義語】
・算を乱す(さんをみだす)
【対義語】
・一糸乱れず(いっしみだれず)
「蜘蛛の子を散らす」の語源・由来
「蜘蛛の子を散らす」は、たくさんの子グモが集まっているところから、一斉に四方八方へ散っていく光景を、大勢の人が逃げ散る様子に重ねた表現です。国語上は、蜘蛛の子の入った袋を破ると、中の子グモが四方八方へ散ることから生まれた言い方として伝わっています。
クモの多くは、産んだ卵を糸で包み、卵嚢(らんのう)という袋状のものにします。孵化(ふか)した子グモは、しばらく卵嚢の中にとどまった後、外へ出て一か所に集まります。この集まりを「クモのまどい」といいます。
子グモのまどいに息を吹きかけるなど、刺激を与えると、子グモは一斉に逃げようとして、あちらこちらへ散ります。その細かな子グモが急にばらばらになる光景は、集まっていた大勢の人々が何かに驚き、思い思いの方向へ逃げ出す様子によく似ています。
この表現には、鎌倉時代前期まで遡る古い用例があります。慈円が著した歴史書『愚管抄(ぐかんしょう)』(1220年ごろ成立、鎌倉時代前期)巻六に、「皆蛛の子を散すがごとくに、公卿も何もにげにけり」とあります。
この一節は、1219年、鎌倉の鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)で、鎌倉幕府第三代将軍の源実朝が襲われた事件を記した場面に出てきます。突然の襲撃に驚いた公卿(くぎょう)や供の人々が、その場から一斉に逃げ出しました。
「皆蛛の子を散すがごとくに」は、「皆が蜘蛛の子を散らしたように逃げた」という意味です。ここでは、単に人々がばらばらになったのではなく、思いがけない危険に直面し、秩序を失って逃げ散る姿を鮮やかに表しています。
古い用例では「蛛の子を散すがごとく」と書かれていますが、現在は「蜘蛛の子を散らすように」という形で用いるのが一般的です。「蛛」から「蜘蛛」へ、「散す」から「散らす」へと表記の形は異なりますが、大勢の者が一斉に逃げ散るという意味の中核は、鎌倉時代の用例と変わりません。
また、現在でも、「蜘蛛の子を散らす」だけで文を終えるより、「蜘蛛の子を散らすように逃げる」「蜘蛛の子を散らすように走り去る」のように、後ろに逃げる動作を添えて使うことが多くあります。蜘蛛の子のように細かく分かれていく見た目だけでなく、突然の驚きによってその場から逃げ去ることも、この表現の大切な意味です。
「蜘蛛の子を散らす」の使い方




「蜘蛛の子を散らす」の例文
- 大きな犬が吠えながら近づくと、公園で遊んでいた子どもたちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
- 警備員が姿を現すと、無断で敷地に入っていた若者たちは蜘蛛の子を散らすように走り去った。
- 突然の雷鳴に驚き、広場に集まっていた人々は蜘蛛の子を散らすように建物へ逃げ込んだ。
- 母が台所へ入ってくると、お菓子をつまみ食いしていた兄弟は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
- 監督が練習場へ戻ってきた途端、休んでいた選手たちは蜘蛛の子を散らすようにその場を離れた。
- 取締りの車が近づくと、無許可で品物を売っていた商人たちは蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・慈円『愚管抄』1220年ごろ。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary.』






















