【ことわざ】
蟻の這い出る隙もない
【読み方】
ありのはいでるすきもない
【意味】
少しのすきまもないほど警戒が厳重で、どこにも逃げ出す余地がないことのたとえ。


【英語】
・airtight security(すきのない厳重な警備)
【類義語】
・水も漏らさぬ(みずももらさぬ)
・鉄桶水を漏らさず(てっとうみずをもらさず)
【対義語】
・八方破れ(はっぽうやぶれ)
・脇が甘い(わきがあまい)
「蟻の這い出る隙もない」の語源・由来
「蟻の這い出る隙もない」は、蟻という小さな虫を基準にしたたとえです。蟻でさえ這い出ることのできるすきまがないなら、人や物がそこを抜け出す余地もない、という考え方から、囲みや警戒の厳しさを表す言い方になりました。
この表現に近い古い形として、「蟻の這い出る所」「蟻の這う隙」という言い方があります。「蟻の這い出る所」は、ほんのわずかなすき間、特に四方八方を固められたときに逃れ出られるすき間を指す言い方です。
『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』(1746年・江戸時代中期、竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲らによる合作)は、大坂の竹本座で初演された人形浄瑠璃の作品です。初版本には、竹田出雲・竹田小出雲・並木千柳・三好松洛の名が列記されており、延享3年(1746)に初演されたことも伝わっています。
その『菅原伝授手習鑑』四段目には、「迯支度しても、〈略〉蟻(アリ)の這(ハヒ)出る所もない」という用例があります。逃げる支度をしても、周囲を固められて、蟻が這い出るほどの場所さえない、という場面の言い方として使われています。
この段階では、現在の「隙もない」ではなく、「所もない」という形です。ただし、意味の芯はすでに、きわめて小さなものを持ち出して、逃げ出す余地のなさを強く言うところにあります。
明治時代には、内田魯庵の『くれの廿八日』(1898年)に、「蟻の這う隙もないほどに雑沓こみあう中」という用例があります。ここでは、厳重な警戒そのものではなく、人が大変混み合って、蟻が這うほどのすきまもない様子を表しています。
このように、「蟻の這い出る所もない」「蟻の這う隙もない」という形では、まず物理的なすきまのなさや、逃げ出せないほど囲まれた状態が表されました。そこから、現在の「蟻の這い出る隙もない」は、すきまのなさだけでなく、警戒や包囲がきわめて厳重であることを言う表現として定着しています。
現在の形で大切なのは、「這い入る」ではなく「這い出る」と言う点です。外から入り込むすきまではなく、囲まれた中から外へ逃げ出すすきまがない、という方向の違いが、このことわざの意味を支えています。
「蟻の這い出る隙もない」の使い方




「蟻の這い出る隙もない」の例文
- 警察は建物の出入口をすべて押さえ、蟻の這い出る隙もない包囲を敷いた。
- 重要な会議の会場は、蟻の這い出る隙もないほど厳重に警備された。
- 城は敵に取り囲まれ、蟻の這い出る隙もない状態に追い込まれた。
- 文化財を運ぶ車列には、蟻の這い出る隙もない警戒態勢が取られた。
- 大会当日の競技場周辺は、蟻の這い出る隙もないほど警備員が配置された。
- 倉庫の周りを見回りの人が固め、蟻の這い出る隙もない見張りになった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・竹田出雲・竹田小出雲・並木千柳・三好松洛『菅原伝授手習鑑』1746年。
・内田魯庵『くれの廿八日』1898年。
・Merriam-Webster, Inc.『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster, Incorporated.























