【ことわざ】
北枕に寝るな
【読み方】
きたまくらにねるな
【意味】
頭を北に向けて寝てはいけないという戒め。死者を北枕にして安置する習俗から、生きている人が同じ向きで寝ることを縁起が悪いとして忌むもの。


「北枕に寝るな」の語源・由来
「北枕」とは、頭を北へ向け、足を南へ向けて寝ることです。日本では、亡くなった人を棺(ひつぎ)に納めるまで北枕にして安置する習俗があり、生きている人が同じ向きで寝ることは縁起が悪いとして、避けられてきました。
この習俗の背景には、釈迦(しゃか)が入滅(にゅうめつ:この世での生涯を終えること)するときの姿があります。初期仏教の経典『長部』第十六経「大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)」には、釈迦が沙羅双樹(さらそうじゅ)の間に、頭を北へ向けた寝床を用意させ、右脇を下にして横たわったことが記されています。
釈迦のこの姿は、後に「頭北面西右脇臥(ずほくめんさいうきょうが)」と呼ばれました。頭を北にし、顔を西へ向け、右脇を下にして横たわる姿を指し、日本では、釈迦の最期にならって死者を北枕にする習慣へと結び付いています。
日本語の古い例としては、『弥勒上生経賛平安初期点』(850年ごろ・平安時代初期)に、「釈迦の北首(キタマクラ)にして」とあります。「北首」という漢字に「キタマクラ」という読みが示されており、平安時代初期には、釈迦の最期の姿を表す言葉として用いられていました。
さらに、『太平記(たいへいき)』(14世紀後半成立・南北朝時代、作者未詳)巻第一には、土岐十郎が戦いの末に自害し、「腹十文字にかき切て、北枕にこそ臥たりける」とあります。腹を切った後、頭を北にして横たわった場面であり、「北枕」が、死を迎えた人物の姿と結び付いて使われています。
このように、「北枕」という言葉そのものは、もともと釈迦の入滅や死者の安置に深く関わるものでした。釈迦の姿は仏教では尊いものですが、日常生活では死を連想させるため、生きている人が北枕で寝ることを避ける考えが広まりました。
もとの経典に書かれているのは、釈迦が最期に横たわった姿であり、生きている人に北枕を禁じる命令ではありません。「北枕に寝るな」という言い方は、死者を北枕にする日本の葬送習俗を背景に、縁起を重んじる生活上の戒めとして伝えられたものです。
したがって、このことわざは、北を向いて寝れば必ず災いが起こると断定するものではありません。死者と同じ寝方を避けようとする昔からの俗信や、死に関わるものを日常から遠ざけようとする人々の心を伝える表現です。
「北枕に寝るな」の使い方




「北枕に寝るな」の例文
- 祖母は、北枕に寝るなという昔からの言い伝えを今も大切にしている。
- 旅館で布団を敷くとき、父は北枕に寝るなと方角を確かめた。
- 林間学校の夜、友人から北枕に寝るなと聞き、布団の向きを変えた。
- 新居の寝室を整える際、家族は北枕に寝るなという習慣を守ることにした。
- 北枕に寝るなという戒めは、死者を北向きに安置する習俗と結び付いている。
- 彼は北枕に寝るなという言い伝えを知っていたが、部屋の都合から方角にはこだわらなかった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館『日本大百科全書』小学館、1984〜1989年。
・『長部』第十六経「大般涅槃経」。
・『弥勒上生経賛平安初期点』850年ごろ。
・『太平記』14世紀後半成立。























