【故事成語】
金石の交わり
【読み方】
きんせきのまじわり
【意味】
金属や石のように堅く結ばれ、いつまでも変わることのない友情。破れることのない親しい交際。


【英語】
・a firm friendship.(堅く変わらない友情)
【類義語】
・断金の交わり(だんきんのまじわり)
・管鮑の交わり(かんぽうのまじわり)
・刎頸の交わり(ふんけいのまじわり)
「金石の交わり」の故事
「金石」の「金」は金属、「石」は岩石を指します。どちらもきわめて堅いことから、「金石」は、壊れにくく、容易には変わらないもののたとえとして使われてきました。「交わり」は、人と人との付き合いや交際を表すため、「金石の交わり」は、金属や石のように堅固な友情を意味します。
この故事成語は、『漢書(かんじょ)』(後漢、80年ごろ成立、班固撰・班昭ら補)の「韓彭英盧呉伝」に出てくる「金石交」という表現にもとづきます。『漢書』は、前漢の歴史を紀伝体で記した中国の史書で、後漢の班固が父の仕事を受け継いで編纂し、班固の死後には、妹の班昭らが未完成の部分を補いました。
この言葉が出てくるのは、項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)が天下を争っていた楚漢の戦いのさなかです。韓信(かんしん)は、はじめ項羽に仕えていましたが、自分の意見や作戦を取り上げてもらえなかったため、項羽のもとを離れて劉邦に従いました。その後、劉邦の将軍として大きな戦功を立て、斉王となるほどの力をもつようになりました。
韓信が斉を平定すると、項羽はその力を恐れ、使者の武涉を送って、自分の側へ寝返るよう勧めました。武涉は、劉邦は約束を破ることがあるため信用できないと説き、韓信に向かって、「今足下雖自以為与漢王為金石交、然終為漢王所禽矣」と述べました。
これは、「今、あなたは自分と漢王との関係を金石のように堅い交わりだと思っているが、最後には漢王に捕らえられるだろう」という意味です。武涉は、韓信が劉邦との間に決して壊れない信頼関係があると考えていることを「金石交」と表し、その信頼もいつか裏切られると警告したのです。
唐代に『漢書』へ注を加えた顔師古は、この「金石」について、「称金石者、取其堅固」と記しています。これは、金石という言葉を用いるのは、その堅固さを取ったものだという意味であり、金属と石の壊れにくさが、揺るぎない人間関係のたとえになっていることを示します。
しかし、韓信は武涉の誘いを断りました。韓信は、項羽に仕えていたころには、自分の意見も策略も用いられなかったが、劉邦は自分を大将軍に任じ、衣服や食事を分け与え、意見や計略を聞き入れてくれたと答えています。そして、これほど深く信頼してくれた人を裏切るのは不吉なことであるとして、劉邦に従い続けました。
武涉が去ったあとには、蒯通も、韓信が劉邦にも項羽にも従わず、天下を三つに分けて自立するよう勧めました。それでも韓信は劉邦を裏切ることができず、自分の功績が大きい以上、劉邦も斉王の地位を奪わないだろうと考え、その勧めを受け入れませんでした。
ところが、項羽が滅びたのち、韓信は兵権を奪われ、斉王から楚王、さらに淮陰侯(わいいんこう)へと地位を落とし、最後には反逆の疑いを受けて処刑されました。そのため、武涉の警告は、韓信の後の運命を思わせる言葉にもなっています。
原典の「金石交」は、二人が実際に永遠の友情を守り通した場面で語られたのではありません。韓信が劉邦との結び付きを金属や石のように堅いものと信じていることを、敵方の使者が指摘する場面で使われています。しかし、その表現そのものが強く印象に残り、後には、心変わりすることのない堅い友情を表す言葉として定着しました。
日本では、室町時代中期に成立した『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』に、すでに「金石の交わり」の用例があります。漢文の「金石交」や「金石之交」が、日本語では「金石の交わり」と読み下され、友情の堅さを表す言い方として受け継がれたことが分かります。また、「金石の契り」という形も用いられます。
こうして「金石の交わり」は、もとは韓信と劉邦との信頼関係を表した『漢書』の一節から、年月や利害、立場の変化にも破られない友情をたたえる故事成語となりました。単に仲がよいだけでなく、困難なときにも互いを信じ、関係を守り続けることに、この言葉の大切な意味があります。
「金石の交わり」の使い方




「金石の交わり」の例文
- 幼いころから苦楽を共にしてきた二人は、金石の交わりで結ばれていた。
- 事業に失敗したときにも離れなかった友との金石の交わりを、彼は生涯大切にした。
- 離れた土地で暮らすようになっても、二人の金石の交わりが薄れることはなかった。
- 祖父は、どのような困難にも助け合った旧友との関係を、金石の交わりと呼んでいた。
- 周囲の誤解や立場の違いにも揺るがない、金石の交わりを築くことは容易ではない。
- 長年にわたる金石の交わりがあったからこそ、彼らは互いを信じて危機を乗り越えられた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・HarperCollins Publishers『Collins English Dictionary』。
・班固撰、班昭ら補『漢書』80年ごろ。
・班固撰、顔師古注『漢書』。
・『文明本節用集』室町時代中期成立。























