【慣用句】
雲を掴む
【読み方】
くもをつかむ
【意味】
物事が漠然としていて、とらえどころがないさま。


【英語】
・nebulous(考えや話などが漠然として形をなさない)
【類義語】
・掴み所がない(つかみどころがない)
・曖昧模糊(あいまいもこ)
「雲を掴む」の語源・由来
「雲」は、空中に浮かぶ細かな水滴や氷の粒の集まりです。遠くからは形のある一つの塊のように見えますが、形を絶えず変え、手を伸ばしても固い物のようにつかむことはできません。一方、「掴む」は、もともと物を手で握って持つことを表します。そこから、目に見えているのに手の中へ収められない雲をつかもうとする姿が、輪郭や手がかりのない物事を理解しようとする様子のたとえとなりました。
この表現には、特定の人物にまつわる一つの物語がもとになったという伝承はありません。雲の形が定まらず、実体を手でとらえられないという身近な性質から生まれた比喩であり、「つかむ」がもつ「物事の内容や要点を理解する」という意味とも重なっています。
古い用例は、近松門左衛門作の人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)『浦島年代記(うらしまねんだいき)』(1722年・江戸時代中期)第二段にあります。この作品は享保7年(1722)に大坂の竹本座で上演され、浦島伝説を取り入れた物語です。
その一節には、「主君の仰(おほせ)も雲をつかむ仙人の住山(すむやま)もがなと」とあります。ここでは「雲をつかむ」という組み合わせが、手に取ることのできないものを追い求める姿に重ねられており、すでに、物事のとらえにくさを表す比喩として用いられています。
江戸時代後期には、為永春水作、歌川国直画の人情本『春色辰巳園(しゅんしょくたつみのその)』(1833〜1835年)に、「雲をつかむやうな事」を当てにして来たという趣旨の用例が出てきます。確かな根拠のない話を頼りに行動する場面で用いられており、現在の「雲を掴むような話」にきわめて近い形です。
『浦島年代記』では「雲をつかむ」と動作そのものを比喩にし、『春色辰巳園』では「雲をつかむやうな事」と、助動詞「よう」の古い表記である「やう」を添えています。この「雲を掴むような話」「雲を掴むような計画」という形が、後に広く使われるようになりました。また、漢字は「摑む」と書くこともありますが、現在は「掴む」の表記が一般的です。
この慣用句は、単に実現が難しい夢や、規模の大きな計画を表すものではありません。重要なのは、話の筋道、根拠、目標、方法などが漠然としていて、どこを手がかりに考えればよいのか分からない点です。そのため、具体的ではない説明、情報の乏しい捜索、まだ輪郭の定まらない構想などを表すときに用います。
「雲を掴む」の使い方




「雲を掴む」の例文
- 先生の説明は抽象的な言葉ばかりで、生徒には雲を掴むような話だった。
- 住所も氏名も分からない人物を捜すのは、雲を掴むような作業だった。
- 予算も期限も示されていない企画案では、雲を掴むようで検討を始められない。
- 新事業の構想は魅力的だが、資金計画がなく、まだ雲を掴むような段階にある。
- 証言がどれも曖昧なため、事件の全体像は雲を掴むようなものだった。
- 将来について尋ねられても、幼い弟にはまだ雲を掴むような考えしか浮かばなかった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press, 『Cambridge Dictionary』。
・近松門左衛門『浦島年代記』1722年。
・為永春水『梅暦余興春色辰巳園』1833〜1835年。























