目次
「背に腹は代えられぬ」とは
読み方・意味
- ことわざ:背に腹は代えられぬ
- 読み方:せにはらはかえられぬ
- 意味:切迫した状況では大切なものを守るために、どうしてもなにかを犠牲にしなければならない。
「背に腹は代えられぬ」ということわざは、差し迫った状況において、より大切なものを守るためには、多少の犠牲を払うのもやむを得ないという意味を持っています。
このことわざは、特に切羽詰まった状況で使われ、選択肢が限られた中で、最も大事なものを優先するために苦渋の決断をすることを表します。
たとえば、経済的に厳しい状況で、大事な支出のために他の出費を削るような場面や、仕事のために私生活の一部を犠牲にするような状況にも当てはまります。
また、古風な表現であり、日常会話ではあまり頻繁に使われないものの、時代劇や文学作品などではよく見られる表現です。
「背に腹は代えられぬ」の語源・由来
武士の戦いに由来する言葉
「背に腹は代えられぬ」ということわざは、武士が剣を使って戦っていた時代に由来すると言われています。
戦場で敵に斬りつけられた際、人間の五臓六腑が詰まった「腹」を攻撃されると即死や致命傷につながるため、武士は本能的に腹を守り、背中を差し出して防御していたと伝えられています。
背中には背骨や肋骨があり、多少の傷なら致命傷を免れる可能性があったことから、「お腹を斬られるくらいなら、背中を傷つけられた方がまだマシだ」と考えられたのです。
江戸時代の「いろはかるた」にも収録
「背に腹は代えられぬ」は、江戸時代後期に誕生した「江戸いろはかるた」にも収録されており、「せ」の札として使われていました。
これは、当時すでにこのことわざが広く知られ、日常的に使われていたことを表しています。
「背」と「腹」の比喩的な意味
このことわざが成り立つ背景には、「腹」と「背」の対比があります。
「腹」は生命維持に欠かせない内臓が収められているため、直接攻撃されると命に関わります。
一方で「背」は、肋骨や背骨で守られており、ある程度の打撃には耐えられると考えられていました。さらに、「腹」は食べることや生存の象徴、「背」は姿勢や誇りを象徴するという見方もあります。
「背に腹は代えられぬ」の使い方
「背に腹は代えられぬ」の例文
- 大事なプレゼンがあるから、少ない貯金を切り崩してボロボロの靴を買い替えたよ。少し高かったけど背に腹は代えられないね。
- 体調は万全ではないが、この仕事の締め切りを守るためには背に腹は代えられぬ。
- 電車が止まってしまったので、お金はかかるがタクシーで向かうしかない。このままだと遅刻をするから、背に腹は代えられぬ。
- 高額だけど、一番信頼できる病院で手術を受けることにした。背に腹は代えられないからね。
- 地震に備えてさまざまな防災グッズを揃えた。出費は痛いけど、安全のためには背に腹は代えられない。
文学作品などの用例
伝兵衛は頓狂な声をあげて、
「えッ、じゃア、本当に見込がついているんですか」
「うむ、ついている。……実のところ、今度の『本草会(ほんぞうかい)』の席で披露して、四隣を驚倒させるつもりだったんだが、背に腹はかえられぬからぶちまける」
「勿体ぶっちゃいけません。そらそら、あなたの手が顫えて来ました。早く早く……」(久生十蘭『平賀源内捕物帳』)
「背に腹は代えられぬ」の類義語・似たことわざ
- 苦しい時は鼻をも削ぐ
- 背より腹
- 時の用には鼻をも削ぐ
- 小を捨てて大に就く
- やむをえない
- 苦肉の策
- 小の虫を殺して大の虫を助ける
- 尺を枉げて尋を直くす
「背に腹は代えられぬ」の対義語
「背に腹は代えられぬ」の注意点
誤った表現に注意!
「背に腹は代えられぬ」は、「背を腹には代えられない」と誤用されることがあるので注意しましょう。この間違いをすると意味が通じなくなります。
(例:✕「背を腹には代えられない」 → 「背中をお腹とは交換できない」という意味になってしまう)
また、「代える」と「変える」を間違えやすいですが、正しくは「代える」を使います。
(例:✕「背に腹は変えられない」 → 「背中がお腹に変化しない」という意味になってしまう)
「背に腹は代えられぬ」の英語表現
Needs must when the devil drives.
直訳: 悪魔に駆り立てられたら是非もない。
意味: 追い詰められた状況では、やりたくないことでもやらざるを得ない、という意味のことわざ。
例文: I didn’t want to take the job, but I had no other choice. Needs must when the devil drives.
(その仕事はやりたくなかったけど、ほかに選択肢がなかった。追い詰められたら仕方がない。)