【ことわざ】
堪忍の忍の字が百貫する
【読み方】
かんにんのにんのじがひゃっかんする
【意味】
怒りや不満をじっと耐え忍ぶことには、たいへん大きな価値があるということ。


【英語】
・Patience is a virtue.(忍耐は美徳である)
【類義語】
・堪忍五両(かんにんごりょう)
・成らぬ堪忍するが堪忍(ならぬかんにんするがかんにん)
・堪忍は一生の宝(かんにんはいっしょうのたから)
・忍の一字は衆妙の門(にんのいちじはしゅうみょうのもん)
【対義語】
・堪忍袋の緒が切れる(かんにんぶくろのおがきれる)
「堪忍の忍の字が百貫する」の語源・由来
「堪忍」は、怒りを抑えて人の過ちを許すこと、また、苦しい境遇や痛みをじっとこらえることを表します。「忍」の字にも、がまんする、じっとこらえるという意味があります。
「百貫」は、銭一貫の百倍を表す言葉です。そこから、たいへん価値のあるもののたとえとしても使われました。
このことわざは、耐え忍ぶ「忍」の一字には、銭百貫ほどの大きな値打ちがある、という形で、堪忍の大切さを強く言い表したものです。怒りをこらえることを、目に見える財産の価値にたとえているところに特徴があります。
古い背景として、江戸時代前期の『世倭支那草』(1664年・寛文4年、松浦某著)があります。この書物は上・中・下巻から成り、京都大学所蔵本の書誌では、題名の読みを「セワシナグサ」、刊行年を1664年、著者を松浦某としています。
『世倭支那草』は、日本のことわざや言い回しを、中国の古典・故事と結びつけて示す性格をもつ書物です。「堪忍の忍の字が百貫する」は、その中に見える言い回しとして伝わっています。
このことわざと関係の深い中国の典拠として、『琅邪代醉編』(明代、張鼎思輯)巻二十六の「忍」の条があります。そこには、武勇のある朱伺に江夏太守の楊珉が、どうして戦いに多く勝てるのかをたずねる話が出てきます。
朱伺は、敵同士が向かい合うときは、ただ勇ましく先に出ることを尊ぶのではなく、忍ぶことを尊ぶのだと答えます。本文には「不貴勇而貴忍、此真一字千金兵法也」とあり、勇だけを貴ぶのではなく忍を貴ぶ、これはまことに一字千金の兵法である、という意味です。
ここでいう「一字千金」は、一つの字にも千金に値するほどの重みがある、というたとえです。日本のことわざでは、その考えが「忍の字が百貫する」という、日本の銭貨の感覚に合った形で受け止められたと考えられます。
また、日本では「忍」の一字を人生の大切な心得として重んじる考えが、江戸時代に広く親しまれました。浅井了意の仮名草子『堪忍記』(1659年・万治2年刊)は、序に「忍の一字」を取り上げ、堪忍を人間生活の基調として、和漢古今の逸話や教訓をまとめた作品です。
このような流れの中で、「堪忍五両」「堪忍は一生の宝」「成らぬ堪忍するが堪忍」など、堪忍を財産や宝にたとえる言い方も使われました。どれも、怒りをこらえ、軽はずみに争わないことが、人生を守る力になるという考えを表しています。
現在の「堪忍の忍の字が百貫する」は、ただ苦しみに黙って耐えよという意味ではありません。むやみに怒りをぶつけず、心を落ち着けて相手や状況を見きわめることには、大きな価値があるという教えを伝えることわざです。
「堪忍の忍の字が百貫する」の使い方




「堪忍の忍の字が百貫する」の例文
- 友人の失言に腹は立ったが、堪忍の忍の字が百貫すると思い、まず事情を聞いた。
- 会議で強い反対意見を受けても、彼は堪忍の忍の字が百貫するを胸に、落ち着いて説明を続けた。
- 兄弟げんかになりそうな場面で、母は堪忍の忍の字が百貫するという言葉を教えた。
- すぐに怒り返さずに相手の話を聞いた彼の態度は、堪忍の忍の字が百貫するそのものだった。
- 部活動で注意されて悔しかったが、堪忍の忍の字が百貫すると思って練習に集中した。
- 近所との小さな行き違いも、堪忍の忍の字が百貫するの心で接すれば大きな争いになりにくい。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松浦某『世倭支那草』1664年。
・浅井了意『堪忍記』1659年。
・張鼎思輯『琅邪代醉編』明代。























