【慣用句】
感に堪えない
【読み方】
かんにたえない
【意味】
非常に感動して、その気持ちを表に出さずにはいられない。


【英語】
・be deeply moved.(深く感動する)
・be moved to tears.(感動して涙ぐむ)
【類義語】
・感無量(かんむりょう)
・感慨無量(かんがいむりょう)
・感銘(かんめい)
【対義語】
・無感動(むかんどう)
・無関心(むかんしん)
「感に堪えない」の語源・由来
「感に堪えない」は、「感」と「堪えない」が結びついた言い方です。「感」は、物事に触れて心が深く動くことを表します。
「堪える」は、苦しいことや強い力をこらえ、もちこたえるという意味をもつ言葉です。その否定形である「堪えない」は、こらえることができないという意味をもとにしています。
したがって、「感に堪えない」は、心に起こった深い感動を内側におさめておくことができない、という成り立ちの表現です。単に「感動した」というより、表情や態度にあらわれるほど心を動かされたことを表します。
この言い方の古い系統として、「感に耐える」という形があります。この形は、はじめは「非常に深い感動をおもてにあらわさない」という意味をもち、打消の語をともなうと、深く感動する意味になります。
古い用例として、『宇津保物語』(970〜999年ごろ成立、平安時代中期)俊蔭巻に、「なほ仲頼、かんにたへでおり走り、万歳楽を舞ひて」とあります。これは、仲頼が深い感動をこらえきれず、走り出して万歳楽を舞った場面を表します。
この段階では、「感にたへで」という打消をともなう形が、心を動かされてじっとしていられない様子を表しています。現在の「感に堪えない」に近い発想が、すでに平安時代の物語の中に出てくることが分かります。
のちには、打消をともなわない「感に耐える」「感に堪える」の形も、深く感動する意味で用いられるようになりました。御伽草子『梵天国』(室町時代末期)には、「かんにたへてぞ聞きにける」という用例があり、音楽をおもしろく感じ入って聞く場面で使われています。
近代になると、「感に堪える」という形も、現在の「感に堪えない」と同じ意味で使われます。泉鏡花『婦系図』(明治40年)には、「味噌汁を装う白々とした手を、感に堪えて見て居たが」という用例があります。
一方で、現代の標準的な言い方としては、「感に堪えない」がよく用いられます。「感に堪える」は、「感に堪えない」を打消の語を伴わないで用いたものとして扱われ、意味は同じです。
この慣用句は、「今昔の感に堪えない」のように、昔と今を思い比べて心を打たれる場合にもよく使われます。「今昔の感」は、今と昔の違いの大きさにしみじみ心を動かされる気持ちを表す言葉です。
尾崎紅葉『二人女房』(1891〜1892年、明治時代)には、「俯仰今昔の感に堪へず」という用例があります。これは、過ぎた時の変化を思い、深く心を動かされる場面で使われています。
山路愛山『透谷全集を読む』(明治35年)にも、「今昔の感に堪へず思ふ所を記す」とあります。ここでは、北村透谷の著作を読み、昔を思い起こして深い感慨を抱く心が表されています。
このように、「感に堪えない」は、古くは「感に耐える」という形や打消を伴う形と関わりながら、心の動きをこらえきれないほどの深い感動を表す言い方として定着しました。現在では、感謝、なつかしさ、喜び、しみじみとした感慨など、強い心の動きを上品に述べる慣用句として使われます。
「感に堪えない」の使い方




「感に堪えない」の例文
- 長年支えてくれた家族の手紙を読み、感に堪えない思いで胸がいっぱいになった。
- 廃校になった母校を久しぶりに訪れ、今昔の感に堪えないものがあった。
- 小さなころから練習を続けてきた選手が優勝し、監督は感に堪えない面持ちだった。
- 避難所で多くの人が助け合う姿を見て、感に堪えない気持ちになった。
- 退職の日に同僚から花束を受け取り、彼は感に堪えない表情を浮かべた。
- 祖父の古い日記に家族への思いがつづられていて、感に堪えない一節だった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・山路愛山『透谷全集を読む』1902年。
・『宇津保物語』970〜999年ごろ成立。
・泉鏡花『婦系図』1907年。
・Merriam-Webster, Inc.『Merriam-Webster.com Dictionary.』























