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世界各地で言い伝えられる“夕焼けは晴れ” 北村孝一【著】

専門家コラム
この記事を書いた人
北村孝一(きたむら よしかつ)先生
北村孝一ことわざ研究者(ことわざ学会代表理事)。エッセイスト。学習院大学非常勤講師として「ことわざの世界」を講義した(2005年から断続的に2017年3月まで)。用例や社会的背景を重視し、日本のことわざを実証的に研究する。

 

世界各地で言い伝えられる“夕焼けは晴れ”

夕焼けは晴れ朝焼けは雨、夕焼けは晴れ

“夕焼けは晴れ”は、夕方太陽が西に沈むころ空が夕焼けにそまると、翌日は晴れる、ということです。その一方で“朝焼けは雨”ともいいます。この二つをつづけて「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」としたり、前後を逆にして言うこともあります。よく知られ、ふだんから使われるので、みなさんも耳にし、自分でも口にすることがあるでしょう。

「夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘(かね)がなる…」という童謡もおなじみですね。私のおさないころ(1950年代前半)を思い出すと、何人かの友だちと遠くまで出かけ、夢中になって遊んでいるうちに、気がつくと夕焼けで空が赤くなり、夕闇がせまっていることがよくありました。当時は、携帯電話などなく、時計をもつのも大人だけで、朝夕6時に鳴るお寺の鐘の音が大きな役割をはたしていたのです。

そんなときは、だれいうとなく「帰ろうか」となって、帰り道では「夕焼け小焼け、あーした天気になーれ」と唱(とな)えながら、はいている下駄を足でほうり上げ、明日の天気をうらなうこともありました。鼻緒が上になって落ちれば晴れ、裏返しになれば雨です。

この天気ことわざは、日本だけでなく、外国でも類似の表現がひろい範囲で使われています。韓国では、日本と同じように「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」といい、中国では、「朝焼けは門を出(いで)ず、夕焼けは千里行け」 といいます。「千里行け」 は、中国式の誇張(こちょう、大げさな)表現で、安心して遠出をしてよいということでしょう。

ドイツ語では、「夕焼けは晴れのしるし、朝焼けは雨の脅(おど)し」といいます。
英語の「マザー・グース」(童謡集)にも、次のような一節がありました。
夕焼けは羊飼いの喜び
朝焼けは羊飼いの用心

羊飼いは、毎日羊のむれを放牧地へ連れていくので天候が気にかかり、夕焼けなら明日は晴れだと喜び、朝焼けなら雨を警戒(けいかい)します。歌詞の「羊飼い」は「船員」にかえて歌うこともよくあります。船員は、雨が降り海があれるとたいへんですね。

また、2千年ほど昔のパレスチナでも夕焼けや朝焼けを見て翌日の天気を予想していたことが聖書の「マタイ伝」でわかります。さらに紀元前3世紀ごろの古代ギリシャでは、博物学者テオフラストスが、やはり夕焼けや朝焼けが天候の前兆(まえぶれ)であることを指摘していました。

どうして、世界のたいへん広い地域で古くから同じようなことわざや言い伝えがあるのでしょうか? これは、おそらく、どこかの国のことわざが世界にひろまったのではなく、それぞれの地域で、人々の生活のなかで別々に言い出され、実際にかなりよく当たるので、古くから言いならわされてきたのではないか、と私は考えています。

では、なぜ、この天気ことわざがよく当たるのでしょうか。中緯度(温帯)の天気は、偏西風(へんせいふう)の影響によって、ふつう西から東へと移動していきます。夕焼けになるのは、西のほうが遠くまで晴れているときなので、二三日は晴れがつづくわけです。逆に、朝焼けになるのは、東のほうが遠くまで晴れているときで、この天気はやがて東へ移動してしまい、天気がくずれ、雨がふることになります。

そう考えると、この天気ことわざは、現代の気象学からみても、ある程度根拠のあるものとみとめられます。
とはいえ、いつでも、どこでもこの天気ことわざが当たるというわけではありません。
まず季節によって違いがあり、春と秋は当たる確率が高く、夏は南からの風が強くなり、冬は北から寒い風が吹くので確率が低くなります。

また、偏西風は地球上のどこでも吹いているわけではなく、低緯度の熱帯や高緯度の寒帯では東風が吹いていて、天気も東から西に移動するのです。台風の進路図をみると、最初は低緯度で東から西へ移動し、やがて北上し、中緯度になると、偏西風の影響を受けて北東へ弧を描くように進んでいくことがわかります。

ところで、日本のことわざ辞典をみると、この天気ことわざは俗信(ぞくしん。信じる人も多いが、根拠がよくわからないもの)とみなして、掲載(けいさい)しないなど、軽視するものが多いようです。しかし、この表現は、単なる俗信ではなく、科学的にもある程度根拠のあるものです。生活に十分に役立ち、古くから世界各地で言いならわされてきたものとして尊重し、研究するだけの価値があるのではないでしょうか。(2026/4/07)

©2026 Yoshikatsu KITAMURA

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北村孝一(きたむら よしかつ)先生

多くのことわざ資料集を監修し、『故事俗信ことわざ大辞典』第2版(小学館、2012)を編纂・監修した。後者を精選しエッセイを加え、読みやすくした『ことわざを知る辞典』(小学館、2018)も編んでいる。視野を世界にひろげ、西洋から入ってきた日本語のことわざの研究や、世界のことわざを比較研究した著書や論考も少なくない。近年は、研究を続けるほか、〈ミニマムで学ぶことわざ〉シリーズ(クレス出版)の監修や、子ども向けの本の執筆にも取り組んでいる。

主な編著書
『故事俗信ことわざ大辞典』第2版(小学館)、『ことわざを知る辞典』(小学館)、『世界のふしぎなことわざ図鑑』(KADOKAWA)、『ミニマムで学ぶ 英語のことわざ』(クレス出版)、『ことわざの謎 歴史に埋もれたルーツ』(光文社)、『世界ことわざ辞典』(東京堂出版)、『英語常用ことわざ辞典』(武田勝昭氏との共著、東京堂出版)など。
北村孝一公式ホームページ
ことわざ酒房(http://www.246.ne.jp/~kotowaza/





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