【石に枕し流れに漱ぐ】の意味と使い方や例文!故事は?(類義語・対義語・英語)

石に枕し流れに漱ぐ

【故事成語】
石に枕し流れに漱ぐ

【読み方】
いしにまくらしながれにくちすすぐ

【意味】
俗世間から遠ざかり、山林に隠れ住んで自由な生活をすること。自然の中で、名利にとらわれず暮らすことのたとえ。

ことわざ博士
「石に枕し流れに漱ぐ」は、石を枕にし、川の水で口をすすぐような、山野での簡素な暮らしを表す故事成語なんだよ。
助手ねこ
名声や出世を追う生活から離れ、自然の中で心静かに暮らす様子をいう場面で用いるニャン。

【英語】
・to live freely in the wilderness(野山で自由に暮らす)
・to live a hermit’s life in seclusion(隠者として俗世を離れて暮らす)

【類義語】
・枕石漱流(ちんせきそうりゅう)
・隠逸(いんいつ)
・泉石膏肓(せんせきこうこう)
・煙霞痼疾(えんかのこしつ)

【対義語】
・仕官(しかん)
・出仕(しゅっし)
・立身出世(りっしんしゅっせ)

「石に枕し流れに漱ぐ」の故事

故事成語を深掘り

「石に枕し流れに漱ぐ」は、漢語の「枕石漱流」を訓読した形です。石を枕として眠り、川の流れで口をすすぐという姿を通して、人里を離れ、山林で自由に暮らす生活を表します。

ここでいう「石」は、自然の中で身を休めるための枕のようなものです。「流れ」は、山中の清い川の水で、口をすすぐためのものです。ぜいたくな寝具や整った住まいではなく、自然そのものを生活のよりどころにするところに、この故事成語の味わいがあります。

古い用例としては、陳寿(ちんじゅ)がまとめた『三国志』(3世紀後半成立)の蜀書(しょくしょ)彭羕伝(ほうようでん)に、「枕石漱流」という形が出てきます。そこでは、処士(しょし:官に仕えず民間にいる知識人)である秦宓(しんみつ)の高い人物像を述べる中で、自然の中に身を置き、質素で気高い生活をするさまを表しています。

また、曹操(そうそう)の「秋胡行(しゅうここう)」にも、「枕石漱流飲泉」という近い形が出てきます。これは、名山をめぐり、石を枕にし、流れで口をすすぎ、泉の水を飲むという、俗世を超えた自由な境地を描く表現です。

このように、「枕石漱流」は、もともと「不便な暮らし」をただ苦しそうに言う表現ではありません。むしろ、名誉や利益に追われる生活から離れ、山水の中で心を自由にする生き方を、清らかなものとして表す言葉です。

日本語の古い用例としては、『太平記』(たいへいき、14世紀後半ごろ成立)に、「石を枕にし泉に嗽いで、幽栖を楽しむは」という形が出てきます。ここでは、石を枕にし、泉の水で口をすすぎ、静かな隠れ住まいを楽しむという文脈で使われています。

この故事成語と深く関わる有名な話に、西晋(せいしん)の孫楚(そんそ)の逸話があります。劉義慶(りゅうぎけい)が編んだ『世説新語(せせつしんご)』(南朝宋、5世紀前半)や、房玄齢(ぼうげんれい)らが編んだ『晋書(しんじょ)』(唐、648年完成)には、孫楚が若いころ隠居を望んだ話が伝わっています。

その話では、孫楚は友人の王済(おうさい)に、自然の中で隠れ住むつもりだと語ろうとしました。本来なら「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを、うっかり「石に漱ぎ流れに枕す」と逆に言ってしまいます。

王済が、川の流れを枕にしたり、石で口をすすいだりできるのかと指摘すると、孫楚は誤りを認めませんでした。流れを枕にするのは耳を洗うためであり、石に漱ぐのは歯を磨くためであると答え、言い間違いを強引に理屈づけました。

この孫楚の話から生まれたのが、「石に漱ぎ流れに枕す」や「漱石枕流(そうせきちんりゅう)」です。そちらは、負け惜しみが強いことや、へ理屈をつけて言い逃れることを表します。

これに対して、「石に枕し流れに漱ぐ」は、孫楚が本来言おうとした正しい形です。つまり、言い逃れの意味ではなく、山林に隠れ住み、自然の中で自由に暮らすという意味を保っています。

現在、この故事成語を使うときは、単に田舎に住むことではなく、世間の名声や利益から距離を置き、自然に親しみながら自分らしく生きる姿を表します。石と流れという簡素なものだけで成り立つ暮らしの中に、心の自由を見いだすところに、この言葉の中心があります。

「石に枕し流れに漱ぐ」の使い方

健太
林間学校で見た山小屋、電気もテレビも少なかったけれど、川の音を聞いて暮らすのは気持ちよさそうだったね。
ともこ
うん。俗世から離れて自然の中で自由に暮らすのは、石に枕し流れに漱ぐという感じだね!
健太
ただ不便な生活という意味ではなくて、名声や忙しさから離れて心を静かにする暮らしなんだね。
ともこ
そうだね。まずは週末にスマホを置いて、近くの森で川の音を聞いてみようか?

「石に枕し流れに漱ぐ」の例文

例文
  • 長年の官勤めを退いた祖父は、山里の小屋で読書と畑仕事を楽しみ、石に枕し流れに漱ぐような暮らしを選んだ。
  • 都会の名声を求めず、渓流の近くで詩を作る生活は、まさに石に枕し流れに漱ぐ境地だった。
  • 彼は出世競争から離れ、森の中で簡素に暮らす石に枕し流れに漱ぐ生き方にあこがれた。
  • 定年後の父は、山のふもとに小さな家を建て、石に枕し流れに漱ぐ日々を楽しんでいる。
  • 世間の評判に心を乱されず、自然とともに暮らす姿は、石に枕し流れに漱ぐという言葉にふさわしい。
  • 石に枕し流れに漱ぐ生活は、ぜいたくを捨てて、心の自由を大切にする生き方を表す。

主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・金岡照光編『三省堂 中国故事成語辞典 ワイド版』三省堂、2010年。
・目加田誠著『新釈漢文大系 78 世説新語 下』明治書院、1978年。
・陳寿『三国志』3世紀後半。
・房玄齢等撰『晋書』648年。
・曹操『秋胡行』3世紀。
・『太平記』14世紀後半。




講談社刊行・全3冊

運営者・北澤篤史の著書

ことわざ・四字熟語・漢字熟語を、マンガで楽しく学べる図鑑シリーズです。

※Amazon・楽天の購入先にはアフィリエイトリンクが含まれます。

マンガでわかる すごい!ことわざ図鑑〈試験に出る〉の表紙
ことわざ

マンガでわかる すごい!ことわざ図鑑〈試験に出る〉

試験によく出ることわざを、マンガと解説で楽しく学べる一冊。

マンガでわかる おもしろ四字熟語図鑑〈試験に出る〉の表紙
四字熟語

マンガでわかる おもしろ四字熟語図鑑〈試験に出る〉

四字熟語をマンガで理解し、意味・漢字・使い方を覚えたい人へ。

マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑の表紙
漢字熟語

マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑

似た意味・同じ読みの漢字熟語の違いを、マンガと用例で学べる一冊。