【故事成語】
朱に交われば赤くなる
【読み方】
しゅにまじわればあかくなる
【意味】
人は、付き合う相手や置かれた環境によって、よくも悪くも影響を受けるというたとえ。


【英語】
・A man is known by the company he keeps.(人は付き合う仲間によって分かる)
・He that lies down with dogs shall rise up with fleas.(悪い仲間といると悪い影響を受ける)
【類義語】
・麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ)
・蓬も麻中に生ずれば扶けずして直し(よもぎもまちゅうにしょうずればたすけずしてなおし)
・善悪は友による(ぜんあくはともによる)
【対義語】
・泥中の蓮(でいちゅうのはす)
「朱に交われば赤くなる」の故事
「朱に交われば赤くなる」は、三世紀の中国、西晋(せいしん)の文人、傅玄(ふげん)が書いた「太子少傅の箴(たいししょうふのしん)」という文章の一節に由来します。この文章は、皇太子の教育係が心に留めるべきことを述べたもので、教育にあたる人物自身が正しい行いをすることの大切さを説いています。
この故事成語のもとは、人物の行動を語る物語ではなく、教えの内容を短い言葉で示した文章です。原文には「故近朱者赤,近墨者黑,聲和則響清,形正則影直」とあり、朱に近づくものは赤くなり、墨に近づくものは黒くなる、音が調和すれば響きは清く、形が正しければ影もまっすぐになる、という趣旨が述べられています。
ここでいう「朱」は、朱色の顔料のことです。朱は古くから漆の着色、絵具、朱肉などに用いられ、わずかに付くだけでも物を赤く染める性質があります。その具体的な色の変化を、人が周囲から影響を受けることに重ねたのが、この表現の分かりやすさです。
「太子少傅の箴」では、朱と墨のたとえは、皇太子のそばにいる人のあり方を説くために用いられています。正しい人がそばにいれば徳義が満ちるが、よくないものが先に入りこめば、よい香りも失われる、という考えにつながっています。つまり、上に立つ人を導く者は、知識だけでなく、身近な手本としても正しくなければならない、という教えです。
この一節は、のちに「近朱者赤,近墨者黑」として独立し、環境が人の性質や習慣を変えることをいう成語になりました。中国語では「朱に近づけば赤くなり、墨に近づけば黒くなる」という形で、日本語の「朱に交われば赤くなる」と対応します。
この一節を伝える重要な文献に『北堂書鈔(ほくどうしょしょう)』があります。『北堂書鈔』は、隋の大業年間、605年から616年にかけて虞世南が編んだ、中国で古くから伝わる語句を分類して集めた書物です。このような書物に引用されたことで、「近朱者赤,近墨者黑」という句は後の時代にも伝わり、成語として用いられる基盤をもちました。
日本語の古い用例では、『北条氏直時代諺留』(1599年ごろ)に「朱に交われば赤くなる」の形が掲げられています。また、江戸時代初めの『祇園物語』(1644年ごろ)には、「世の中も朱にましはれは赤くなり」という形が出てきます。寺の近くの子どもは、習わなくても経を読むようになる、という内容と結びついており、人が身近な環境から自然に感化されるという考えが表れています。
もとの漢文では「朱」と「墨」を並べ、よい影響と悪い影響の両方を対にして述べていました。日本語では「朱に交われば赤くなる」の部分だけで使われることが多くなりましたが、意味としては、よいほうにも悪いほうにも感化されるという広い内容を保っています。
そのため、この故事成語は、ただ「悪い友人に気をつけなさい」と言うだけのものではありません。よい友人、よい環境、よい手本に近づくことで、人は自然によい方向へ導かれるという前向きな意味も含んでいます。現在でも、友人関係や学びの環境を考えるときに使いやすい、古い教えをもつ表現です。
「朱に交われば赤くなる」の使い方




「朱に交われば赤くなる」の例文
- まじめに練習する仲間と過ごすうちに自分も早く来て準備するようになり、朱に交われば赤くなると感じた。
- 乱暴な言葉を使う友人たちと一緒にいるうちに口調が荒くなり、朱に交われば赤くなるという言葉が当てはまった。
- 読書好きの友人にすすめられて本を読む習慣がついたのは、朱に交われば赤くなる好例だ。
- 時間を守る人たちの多い職場に入ってから遅刻が減り、朱に交われば赤くなるを実感した。
- 勉強に集中する仲間のそばで過ごしたことで、朱に交われば赤くなるように学習への姿勢が変わった。
- 悪ふざけをする集団に流されて注意を受けた経験から、朱に交われば赤くなるという教えの重みを知った。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北京・商務印書館・小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・中華民国教育部『成語典』2020年。
・虞世南編『北堂書鈔』隋、大業年間(605〜616年)。
・傅玄『太子少傅箴』西晋、3世紀。























