【慣用句】
遅かりし由良之助
【読み方】
おそかりしゆらのすけ
【意味】
待ちかねた相手がようやく来たとき、または行動が遅れて時機を逃し、もはや役に立たないときに、しゃれていう言葉。


【英語】
・You’re too late(来るのが遅すぎる)
・It’s too late(もう手遅れだ)
【類義語】
・後の祭り(あとのまつり)
・時既に遅し(ときすでにおそし)
【対義語】
・思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
「遅かりし由良之助」の語源・由来
「遅かりし由良之助」は、人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)と歌舞伎の名作『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の一場面をもとに生まれた言い方です。「遅かりし」は「遅かった」という意味で、全体としては「来るのが遅かったぞ、由良之助」という芝居がかった調子になります。
『仮名手本忠臣蔵』(1748年・江戸時代中期、二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳合作)は、全十一段から成る人形浄瑠璃です。寛延元年8月14日に大坂の竹本座で初演され、同年12月には歌舞伎としても上演されました。
この作品は、元禄時代に起きた赤穂事件(あこうじけん)を題材としています。ただし、当時の幕府への批判と受け取られることを避けるため、物語の時代を『太平記』の世界へ移し、実在の人物とは異なる名を付けています。赤穂藩主の浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)に当たる人物が塩谷判官(えんやはんがん)、家老の大石内蔵助(おおいしくらのすけ)に当たる人物が大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)です。
もとになったのは、四段目の「塩谷判官切腹の段」です。主君の塩谷判官は、城中で高師直(こうのもろのう)に斬りかかった罪により、切腹と領地没収を命じられます。判官は死装束を整え、国家老である由良之助に一目会いたいと、その到着を待ち続けます。
しかし、由良之助はなかなか姿を現しません。判官はいつまでも待つことを許されず、ついに刀を腹へ突き立てます。まさにその直後、由良之助が駆け付けました。判官は由良之助に無念の思いを伝え、腹切り刀を形見として託したのち、息を引き取ります。
この場面で、由良之助は判官の死後に到着したわけではありません。判官が生きているうちに間に合い、その最期の言葉を聞き取っています。ただし、判官が刀を腹へ突き立てるまで姿を現さないため、観客は「早く来てほしい」と息を詰めて待つことになります。その緊張感が、「由良之助は来るのが遅い」という強い印象を生みました。
浄瑠璃の台本では、判官が由良之助に「ヤレ由良之助、待ちかねたわい」と語り掛けます。しかし、「遅かりし由良之助」というせりふそのものは、もとの台本にはありません。作品の有名な場面をふまえ、後の人々が調子よく作った決まり文句です。
古い実例として、斎藤緑雨の『売花翁』(1893年・明治時代)に「遅かりし由良之助」が出てきます。そこでは、必要な道具を慌てて取り出したものの、気付いたときにはすでに遅かったという場面で使われています。このころには、単に人を待ちかねる意味だけでなく、行動が時機を外して役に立たなくなったという、現在に近い意味でも用いられていました。
さらに、岡本綺堂の『廿九日の牡丹餅(にじゅうくにちのぼたもち)』(昭和11年)では、今から出掛けても間に合わない場面で使われています。江戸川乱歩の『妖怪博士(ようかいはかせ)』(昭和13年)には、「由良之助」を作中人物に置き換えた「おそかりし明智探偵」という言い方も出てきます。
このように、「遅かりし由良之助」は、舞台で由良之助の到着を待つ緊迫した場面から生まれました。その後、遅れて来た相手を冗談めかして迎える言葉となり、さらに、せっかく行動しても時機を逃して間に合わないという意味へと広がりました。深刻な場面で突き放すように使うよりも、身近な失敗や遅刻を芝居がかった調子で軽くからかう場合に適した表現です。
「遅かりし由良之助」の使い方




「遅かりし由良之助」の例文
- 申し込みの締め切りが過ぎてから書類を持参しても、遅かりし由良之助だ。
- 会議が終わったあとで名案を持ってきても、遅かりし由良之助と言わざるを得ない。
- 限定商品が売り切れてから注文しようとしても、遅かりし由良之助である。
- 雨が降り出してから洗濯物を取り込もうとしたが、遅かりし由良之助だった。
- 試合が始まってからユニフォームを届けても、遅かりし由良之助になってしまう。
- 何度も呼んだのに来なかった友人がようやく現れ、皆は遅かりし由良之助と笑った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳『仮名手本忠臣蔵』1748年。
・斎藤緑雨『売花翁』1893年。























