【ことわざ】
鬼が住むか蛇が住むか
【読み方】
おにがすむかじゃがすむか
【意味】
どんな恐ろしいものが住んでいるか分からないこと。また、人の心の底にどのような考えが潜んでいるか、想像がつかないこと。


【類義語】
・人は見かけによらぬもの(ひとはみかけによらぬもの)
【対義語】
・胸襟を開く(きょうきんをひらく)
「鬼が住むか蛇が住むか」の語源・由来
「鬼が住むか蛇が住むか」の「鬼」と「蛇」は、どちらも人に恐れを抱かせるものの代表です。ここで「蛇」を「じゃ」と読む場合は、普通の小さな蛇というより、大きな蛇や大蛇を指します。鬼や大蛇がどこかに潜んでいるかもしれないという想像によって、外からは分からない恐ろしさを表した言い方です。
このことわざの古い用例は、近松門左衛門の人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)『心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)』(1720年・江戸時代中期、近松門左衛門著)の中の巻にあります。原文には、「女房のふところには鬼がすむかじゃが住むか」とあります。
『心中天の網島』は、享保5年、すなわち1720年12月6日に、大坂の竹本座(たけもとざ)で初演されました。同年10月14日に、大坂の網島(あみじま)にある大長寺(だいちょうじ)で起こった心中事件をもとに作られた、全三巻の作品です。
物語の中の巻では、紙屋治兵衛(かみやじへえ)が、別れた遊女の小春(こはる)が恋敵の太兵衛(たへえ)に身請けされるという噂を聞き、炬燵(こたつ)で涙を流します。その姿を見た妻のおさんは、夫を引き起こし、「女房の懐には鬼が住むか蛇が住むか」と責めます。
この場面で、おさんは、長い間連れ添ってきた妻の心に、夫が近づくことを恐れるような鬼や大蛇でも潜んでいるのか、と訴えています。最も身近なはずの妻よりも小春を思って泣く夫に対し、夫婦であっても互いの心の奥までは分からないという悲しみと恨みを込めた言葉です。
もとの用例では、「女房のふところ」という具体的な場所が示されていました。「ふところ」は、着物の胸元であると同時に、人の胸の内や心の奥を思わせます。そこに鬼や蛇が「住む」と表すことで、外からは見えない所に、恐ろしい感情や考えが隠れているというたとえになっています。
その後、「女房のふところには」という部分が外れ、「鬼が住むか蛇が住むか」という形で用いられるようになりました。特定の夫婦の心情を表す言葉から、どのような人や物が潜んでいるか分からない場所、または、どのような考えを抱いているか分からない人の心を広く表すことわざへと定着しました。
『心中天の網島』は、後世に繰り返し改作され、安永7年、すなわち1778年には、近松半二らによる『心中紙屋治兵衛(しんじゅうかみやじへえ)』が作られました。さらに、それを増補・改作した『天網島時雨炬燵(てんのあみじましぐれのこたつ)』も生まれ、原作以上に盛んに上演された時期がありました。
よく似た言い方に、「鬼が出るか蛇が出るか」がありますが、意味と由来は異なります。「鬼が出るか蛇が出るか」は、これからどのような事態が起こるか予想できないことを表し、からくり人形師の口上に由来します。一方、「鬼が住むか蛇が住むか」は、すでにその場所や人の心の中に潜んでいるものが分からないことを表します。
このように、「鬼が住むか蛇が住むか」は、妻のおさんが夫に向けて発した切実な恨みの言葉から、人の心や未知の場所に何が隠れているか分からないという、広い意味のことわざへと移り変わった表現です。
「鬼が住むか蛇が住むか」の使い方




「鬼が住むか蛇が住むか」の例文
- 笑顔で近づいてきた勧誘員の本心は分からず、鬼が住むか蛇が住むかと用心した。
- 長く付き合ってきた相手でも、鬼が住むか蛇が住むか、人の心の奥まで読み切ることはできない。
- 誰も入ったことのない古い屋敷は、鬼が住むか蛇が住むか分からないと村人に恐れられていた。
- 親切そうな匿名の連絡にも、鬼が住むか蛇が住むかと考え、個人情報を渡さなかった。
- 穏やかな態度を見せる部長の胸中について、社員たちは鬼が住むか蛇が住むかと警戒していた。
- 表面の評判だけで人を信用せず、鬼が住むか蛇が住むかという慎重さを忘れてはならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・近松門左衛門『心中天網島』1720年。
・独立行政法人日本芸術文化振興会『文化デジタルライブラリー 文楽編 近松門左衛門』。
・公益社団法人日本俳優協会・一般社団法人伝統歌舞伎保存会『歌舞伎演目案内 心中天網島―河庄・紙屋内』。























