【故事成語】
屋上屋を架す
【読み方】
おくじょうおくをかす
【意味】
すでに十分にできているものへ同じようなものを重ね、無益なことをするたとえ。内容を重複させたり、新しさのない模倣を加えたりすること。


【英語】
・gild the lily(すでに十分よいものへ、余計な飾りや改良を加える)
【類義語】
・屋下に屋を架す(おくかにおくをかす)
・蛇足(だそく)
【対義語】
・画竜点睛(がりょうてんせい)
「屋上屋を架す」の故事
「屋上屋を架す」のもとになった表現は、中国の古典『世説新語(せせつしんご)』(南朝宋、5世紀、劉義慶撰)「文学」に出てくる「屋下架屋」です。『世説新語』は、後漢末から東晋にかけて活躍した名士たちの言葉や行動を集めた書物です。
この言葉が出てくるのは、東晋の文人である庾闡(ゆせん)が、『揚都賦(ようとのふ)』という文章を作った場面です。庾闡は字(あざな)を仲初といい、原文では「庾仲初」と記されています。
庾闡は、完成した『揚都賦』を親族の庾亮に見せました。庾亮は身内への情から、この作品を張衡の『二京賦』や左思の『三都賦』に続く名作として高く評価しました。
庾亮の称賛によって評判が広まり、人々は競って『揚都賦』を書き写しました。そのため、都では紙の値段が高くなったと記されています。
しかし、東晋の政治家である謝安(しゃあん)は、この評判に同意しませんでした。謝安は「此是屋下架屋耳」と述べ、これは屋根の下に、もう一つ屋根を架けたようなものにすぎないと批評しました。
謝安は続けて、『揚都賦』は何事も先人の作品をまねており、内容の狭さを免れていないと評しました。ここでの「屋下に屋を架す」は、単に手間が重なることだけでなく、すでに優れた作品があるにもかかわらず、それを模倣した新味のない作品を作ることも表しています。
この表現は、顔之推が子孫への教えを記した『顔氏家訓(がんしかくん)』(北斉から隋、6世紀成立)「序致」にも出てきます。そこには、魏・晋以後の書物は同じ道理や事柄を重ね、互いにまねており、「屋下架屋、牀上施牀」のようなものだとあります。
「牀上施牀」は、寝台の上に、さらに寝台を置くという意味です。「屋下架屋」と並べることで、すでに足りているものに同じものを重ねる無益さを、いっそう分かりやすく表しています。
日本語では、原文に近い「屋下に屋を架す」という形が伝わり、さらに「屋上に屋を架す」「屋上屋を架す」という形も用いられるようになりました。「屋下」から「屋上」へと形は変わりましたが、家にもう一つ家や屋根を重ねるという、たとえの骨組みは共通しています。
「屋上屋を架す」という形は、1923年にはすでに記録されています。昭和26年、平野謙は「現代日本小説」の中で、「いたずらに屋上屋を架する愚をさけるために」と述べ、すでに論じられた事柄をむやみに繰り返さないという意味で用いました。
このように、「屋上屋を架す」は、もとは先人の文章をまねた、独創性の乏しい作品への批評から生まれました。その後、同じ説明を繰り返すことや、十分に整った仕組みに不要な手順を付け加えることなど、重複した無益な行いを広く表す故事成語として定着しています。
「屋上屋を架す」の使い方




「屋上屋を架す」の例文
- すでに要点のまとまった報告書へ同じ説明を数ページ加えるのは、屋上屋を架すようなものだ。
- 詳しい案内板の横に同じ内容の掲示を置けば、屋上屋を架すことになる。
- 完成した計画に役割の重なる制度を付け加える案は、屋上屋を架すとして退けられた。
- 父の説明だけで十分なのに、家族全員が同じ注意を繰り返しては、屋上屋を架すに等しい。
- 先行研究を言い換えただけの論文では、屋上屋を架すという批判を免れない。
- 便利にするつもりで不要な手続きを増やせば、かえって屋上屋を架す結果となる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・劉義慶撰、劉孝標注『世説新語』5世紀成立。
・顔之推『顔氏家訓』6世紀成立。
・塙書房編集部編『文学読本 理論篇』塙書房、1951年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary』。























