【ことわざ】
亀の甲より年の功
【読み方】
かめのこうよりとしのこう
【意味】
年長者には、長年の経験によって身につけた、若者には及びにくい知恵や技能があるということ。


【英語】
・With age comes wisdom.(年齢を重ねるにつれて知恵が身につく)
【類義語】
・烏賊の甲より年の功(いかのこうよりとしのこう)
・老いたる馬は路を忘れず(おいたるうまはみちをわすれず)
【対義語】
・負うた子に教えられて浅瀬を渡る(おうたこにおしえられてあさせをわたる)
「亀の甲より年の功」の語源・由来
「亀の甲より年の功」は、亀の背を覆う硬い殻である「甲」と、長年の経験による力を表す「年の功」とを、同じ「こう」という音で結んだことわざです。年長者の知恵をたたえながら、語呂合わせによる軽いおもしろさも添えています。
「年の功」とは、年を取り、経験が豊富になったこと、また、その経験によって発揮される力のことです。この言い方は、室町時代中期の古辞書『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』にも載っており、ことわざが成立する以前から用いられていました。
ことわざ全体の古い用例には、浄瑠璃(じょうるり)の『嫩㮤葉相生源氏(わかみどりあいおいげんじ)』(1773年・江戸時代中期、福内鬼外作)があります。福内鬼外は、平賀源内が浄瑠璃を書く際に用いた名です。
その第五段には、「亀の甲より年の功、九郎助が追蹤笑ひ」とあります。この時点ですでに、現在の見出しと同じ「年の功」という表記が使われており、十八世紀後半には、今に近い形が定着していたことが分かります。
「亀の甲」は、まず「年の功」と音をそろえるために取り上げられたものです。そのため、亀の甲そのものに、年長者の知恵を上回る特別な価値があるという意味ではありません。
ただし、亀は古くから長寿を思わせる動物であり、年功を積むことを「甲羅を経る」ともいいます。こうした連想が、亀と長年の経験との結びつきを分かりやすくしています。
このことわざは、「亀の甲より年の劫」と書くこともあります。「劫(こう)」は、仏教やインド思想で、普通の年月では数えられないほど長い時間を表す言葉であり、「甲」と同音であることから語呂合わせになります。
「年の劫」と書く形では、亀がきわめて長い年月を経るという考えと、人も長い年月の中で経験を積むこととを重ねます。ただし、古い実例には「年の功」と書かれたものがあり、現在の表記も「功」が一般的です。
また、「亀」の代わりに烏賊(いか)を用いた「烏賊の甲より年の功」という形もあります。烏賊の甲と年の功とを音で結ぶ言い方であり、動物の種類よりも、「甲」と「功」の語呂合わせが大切であったことを示しています。
近代には、夏目漱石の小説『坑夫(こうふ)』(明治41年、夏目漱石著)にも、「亀の甲より年の功」という表現が出てきます。年長者が若者に、自分の話を参考として聞くよう勧める場面で使われています。
この用例では、単に年齢が上であることを誇るのではなく、若いころの失敗も知っている者として助言するところに、「年の功」が表れています。長く生きる間に得た知恵には、書物だけでは得にくい価値があるという考えです。
こうして、「亀の甲より年の功」は、年長者の経験が思いがけない問題を解決したときや、熟練者の判断の確かさに感心したときに使われてきました。語呂のよい柔らかな表現によって、経験の尊さを印象深く伝えることわざです。
「亀の甲より年の功」の使い方




「亀の甲より年の功」の例文
- 祖母が焦げついた鍋をきれいに直すのを見て、亀の甲より年の功だと感心した。
- 雲の動きから早めに下山を決めた案内人の判断は、亀の甲より年の功の一言に尽きる。
- 祭りの準備では、亀の甲より年の功で、地域の年長者が手際よく役割を決めた。
- 原因不明の故障をベテラン整備士がすぐに見抜き、新人たちは亀の甲より年の功を実感した。
- 若い社員には気づけなかった交渉の落とし穴を会長が指摘し、亀の甲より年の功を示した。
- 父は亀の甲より年の功と言って、祖父から教わった災害への備えを家族に伝えた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』
・福内鬼外『嫩㮤葉相生源氏』1773年。
・夏目漱石『坑夫』1908年。























