【ことわざ】
愛立てないは祖母育ち
【読み方】
あいだてないはばばそだち
【意味】
祖母に甘やかされて育った子どもは、遠慮がなく、わがままになりやすいということ。甘やかしすぎる育て方への戒めを表す。


【英語】
・a spoiled child(甘やかされて、わがままにふるまう子ども)
・to spoil a child(子どもを甘やかして、ふるまいに悪い影響を与える)
【類義語】
・祖母育ちは三百安い(ばばそだちはさんびゃくやすい)
・祖母育ちは銭が安い(ばばそだちはぜにがやすい)
・年寄り育ちは三文安い(としよりそだちはさんもんやすい)
【対義語】
・可愛い子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ)
「愛立てないは祖母育ち」の語源・由来
「愛立てないは祖母育ち」は、中国の古い話に由来する言葉ではなく、日本で伝えられてきた育児やしつけについてのことわざです。子どもをかわいがる気持ちが強すぎると、遠慮や礼儀が身につきにくいという、昔の生活感覚を短く言い表しています。
前半の「愛立てない」は、現代ではあまり使われない古い言葉です。もとの形として「あいだてない」があり、無作法である、ぶしつけである、分別がない、わがままだ、勝手気ままだ、といった意味で使われました。
さらに古い形として「あいだちなし」があります。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ、平安時代中期、紫式部著)には「あいだちなし」が出てきて、おもしろみがない、無愛想である、遠慮がない、ぶしつけである、という意味をもっていました。
この「あいだちなし」については、「愛立つことなし」という考え方に結びつける説と、「あひだち」、つまり間隔やへだたりの意味に結びつける説があります。語の成り立ちを一つに決めきるよりも、古くから「遠慮がない」「ぶしつけだ」という方向へ意味が動いていった言葉として見ると分かりやすくなります。
室町時代の『漢書列伝竺桃抄』(かんじょれつでんじくとうしょう、1458〜1460年)には、「あいたてない」に近い形が出てきます。そこでは「度が過ぎる」「むやみやたらだ」という意味で用いられており、後の「わきまえがない」「遠慮がない」という意味へつながる早い段階の用例といえます。
江戸時代前期の俳諧集『季吟十会集』(きぎんじっかいしゅう、1672年)には、「姥そだち」と「あいたてなく」が同じ句の中に現れます。ここでは、祖母に育てられたことと、わきまえのないふるまいとを結びつける見方が、すでに言葉遊びの中で共有されていたことがうかがえます。
江戸時代に入ると、「あいだてない」は芝居や読み物の中でも使われました。和泉流狂言の『庵の梅(いおりのうめ)』では無作法なふるまいを表し、浄瑠璃(じょうるり)『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』では、子を寵愛しすぎて分別を失う文脈で使われています。
また、浮世草子(うきよぞうし)『沖津白波』(おきつしらなみ、1702年)では、遠慮なくふるまう意味の用例があり、『商人軍配団』(あきんどぐんばいうちわ、1712年ごろ)では、親のある娘が「あいたてなく」育つという形で、わがままに育つ意味が出てきます。
さらに『世間娘容気』(せけんむすめかたぎ、1717年・江戸時代中期、江島其磧作)では、父母に「あいたてなく」育てられた者が、幼いころの調子を改めないという文脈で使われています。これは、かわいがりすぎる育て方が、子どもの態度に残るという考え方をよく示す例です。
一方で、後半の「祖母育ち」と同じ考え方は、「祖母育ちは三百安い」ということわざにも表れます。「三百安」は、「祖母育ちは三百やす」の略で、祖母に甘やかされて育った者は、大人になってもわがままで、人柄が劣るという意味をもつ言葉です。『俚言集覧』(りげんしゅうらん、1797年ごろ以後、江戸時代後期、太田全斎編)に用例があります。
この「三百安い」は、実際にお金で人の価値をはかるという意味ではなく、「少し安っぽい」「見劣りする」という昔のたとえの言い方です。祖母に大事にされることそのものよりも、きびしく教えられる機会が少ないまま育つことへの戒めが中心にあります。
つまり、「愛立てないは祖母育ち」は、「あいだちなし」「あいだてない」といった古い言葉の流れと、「祖母育ち」を甘やかしと結びつける近世のことわざの流れが重なってできた表現です。今では、祖母や祖父母に育てられた人を決めつけるためではなく、愛情としつけの釣り合いを考えさせる古い戒めとして読むのがふさわしい言葉です。
「愛立てないは祖母育ち」の使い方




「愛立てないは祖母育ち」の例文
- 祖母に何でも先回りしてもらい、礼を言う習慣が身につかなかったため、愛立てないは祖母育ちと言われた。
- 友人の家で自分の分だけ大きな菓子を取ろうとする姿に、愛立てないは祖母育ちという古いことわざを思い出した。
- かわいがるばかりで注意しない育て方は、愛立てないは祖母育ちにつながるおそれがある。
- 祖母の愛情に包まれていても、順番やあいさつを教えなければ、愛立てないは祖母育ちになりかねない。
- 家庭では、愛立てないは祖母育ちとならないよう、ほめることと叱ることの両方を大切にした。
- 昔の人は、甘やかしすぎへの戒めとして、愛立てないは祖母育ちということわざを用いた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・紫式部『源氏物語』1001〜1014年ごろ。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・太田全斎編『俚言集覧』1797年ごろ以後。























