【ことわざ】
愛しき子には旅をさせよ
【読み方】
いとしきこにはたびをさせよ
【意味】
子どもを本当に大切に思うなら、甘やかして手元に置くばかりでなく、世の中に出して苦労や経験を積ませるのがよい、というたとえ。


【英語】
・If you love a child, let him learn by experience(子どもを愛するなら、経験から学ばせよ)
【類義語】
・可愛い子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ)
・獅子の子落とし(ししのこおとし)
【対義語】
・乳母日傘(おんばひがさ)
「愛しき子には旅をさせよ」の語源・由来
「愛しき子には旅をさせよ」は、「いとしい子」「かわいい子」を、あえて親元から離れた厳しい経験の場へ送り出す、という考えを表したことわざです。ここでいう「旅」は、楽しい見物や遊びの旅行ではありません。近代以前の旅は、歩いて進む道のりが基本であり、難所や治安の悪い場所もあって、心身に大きな負担をかけるものでした。そこから「旅」は、世間に出て、他人の中で苦労しながら経験を積むことのたとえにもなりました。
この考えの古い形は、江戸時代前期の俳諧書『毛吹草(けふきぐさ)』(寛永15年〔1638年〕序、松江重頼編)に、「いとおしき子には旅をさせよ」という形で出てきます。『毛吹草』は俳諧の作法書であり、撰集をも兼ね、巻二には世話・俚諺(りげん:世間で言い伝えられる短い教え)に関わる言葉も収めています。
「愛しき」に近い形の用例としては、仮名草子(かなぞうし)『好色袖鑑』(1682年・江戸時代前期)下に、「うき世のたとへにも、いとしき子には旅をさせよといふも、よろづうき無常を思ひしるは、たびのそらなり」とあります。ここでは、旅の空に身を置くことで、世の中のつらさや無常を知る、という文脈で使われています。愛する子に旅をさせるという言い方は、単に遠くへ出すことではなく、苦労を通して世間を知ることと結びついています。
のちには、「可愛い子には旅をさせよ」という形が広く用いられるようになりました。雑俳『へらず口』(1734年・江戸時代中期、不及子編)には、「かはい子に旅は心のさはし柿」という句が出てきます。「かわいい子」と「旅」を結びつけ、旅によって心が鍛えられるという発想を、たとえを用いて詠んだものです。
近代の文章にも、このことわざは受け継がれています。中勘助『銀の匙』(1913〜1915年)には、「可愛い子には旅をさせろ」という形が出てきます。また、菊池寛『小説家たらんとする青年に与う』(1923年)では、若い時代の苦労を述べる中で、同じ言い回しが用いられています。親子の教えに限らず、若い人が世の中に出て苦労を知ることの大切さを表す言葉としても、使われるようになりました。
このように、「愛しき子には旅をさせよ」は、「愛しているから苦労を避けさせる」のではなく、「愛しているからこそ、力をつける経験をさせる」という考えを表します。ただし、子どもを突き放すという意味ではありません。見守りながら、成長に必要な経験をさせることを説くことわざです。
「愛しき子には旅をさせよ」の使い方




「愛しき子には旅をさせよ」の例文
- 祖父は、愛しき子には旅をさせよと言って、父を若いうちから地方の仕事に出した。
- 母は心配しながらも、愛しき子には旅をさせよの思いで、兄の一人暮らしを見守った。
- 愛しき子には旅をさせよというように、子どもには失敗から学ぶ機会も必要だ。
- 先生は、班長を任せることも愛しき子には旅をさせよの一つだと考えていた。
- 初めての海外研修に送り出す父の言葉は、まさに愛しき子には旅をさせよだった。
- 何でも先回りして助けるより、愛しき子には旅をさせよの心で見守ることが大切だ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近藤いね子・高野フミ編『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。
・『好色袖鑑』1682年。
・不及子編『へらず口』1734年。























