【ことわざ】
言うた損より言わぬ損が少ない
【読み方】
いうたそんよりいわぬそんがすくない
【意味】
言い過ぎや言い間違いで受ける損より、黙っていたために受ける損のほうが小さいという戒め。余計な発言は慎むほうがよい、ということ。


【英語】
・Least said, soonest mended(言葉は少ないほど、あとで始末をつけやすい)
【類義語】
・口は禍の門(くちはわざわいのもん)
・物言えば唇寒し(ものいえばくちびるさむし)
【対義語】
・言い勝ち功名(いいがちこうみょう)
「言うた損より言わぬ損が少ない」の語源・由来
「言うた損より言わぬ損が少ない」は、言ってしまったための不利益と、言わずにいたための不利益とを並べ、前者のほうが重くなりやすいと教えることわざです。「損」を二度くり返すことで、発言する前に、その言葉があとに残す結果まで考えるよう促しています。
このことわざは、特定の人物の出来事を語る形ではなく、人づきあいの中でくり返し経験される注意を、短い比較の形にまとめたものです。「言うた」と「言わぬ」とを向かい合わせることで、口を開くか、それともあえて控えるかという迷いを、身近な言葉で表しています。
口から出た言葉が災いを招くという教えは、古くから語り継がれてきました。中国の仏教資料集『法苑珠林(ほうおんじゅりん)』(唐、668年成立、道世(どうせい)著)には、「人心は是れ毒根、口は禍の門たり」とあります。心に起こったよくない思いが言葉となって外へ出れば、口が災いの入り口にもなる、という意味です。
日本では、松尾芭蕉の「座右の銘」に添えられた句「物言へば唇寒し秋の風」が、貞享年間(1684〜1688年)に成ったといわれます。その前には「人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ」と記されており、人の短所を言ったり、自分の長所を誇ったりしたあとに残る、心の寒さを表していました。
この芭蕉の句は、のちに「余計なことを言うと、自分にも災いが及びかねない」という広い戒めとして受け取られるようになりました。江戸時代後期の作品『七偏人』(1857〜1863年)にも、すでにその意味に近い用例が出てきます。口に出した言葉の重さを戒める考え方が、日常のことわざとして広く用いられるようになったことがうかがえます。
また、坪内逍遙『当世書生気質』(1885〜1886年)には、「言わぬが花」の用例が出てきます。「言わぬが花」は、はっきり口にしないほうが、かえってよい場合があるという意味のことわざです。災いを避けるために黙るというよりも、言わないことに品や余韻を認める表現ですが、沈黙を価値ある選択としてとらえる点では、「言うた損より言わぬ損が少ない」と通じています。
このように、口から出た言葉が禍を招くという教え、言ったあとの心の寒さを戒める教え、あえて言わないことのよさを説く教えは、表し方こそ違っても、言葉を慎む知恵を伝えています。「言うた損より言わぬ損が少ない」は、その知恵を、「言ったための損」と「言わなかったための損」の大きさを比べる、たいへん分かりやすい形で言い表したことわざです。
ただし、必要な報告や、相手を助けるための誠実な言葉まで控えるように勧める表現ではありません。悪口や皮肉、秘密を軽々しく話すこと、怒りまかせの言い返しのように、口に出したあとで取り戻しにくい言葉を前にしたとき、まず慎むことの大切さを教えることわざです。
「言うた損より言わぬ損が少ない」の使い方




「言うた損より言わぬ損が少ない」の例文
- 友だちの失敗を笑いものにしそうになった彼は、言うた損より言わぬ損が少ないと思い、口を閉じた。
- 食卓で腹立ちまぎれの文句を返す前に、母は言うた損より言わぬ損が少ないと考え直した。
- 地域の行事の準備で意見がぶつかったとき、彼は言うた損より言わぬ損が少ないと、皮肉だけは言わずに済ませた。
- 同僚への返事に余計な非難を書きかけたが、言うた損より言わぬ損が少ないと気づいて削った。
- 秘密を聞かれても、彼女は言うた損より言わぬ損が少ないと心得て、話題を変えた。
- 言うた損より言わぬ損が少ないという教えは、怒りに任せた一言を慎む場面によく当てはまる。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・瀬戸賢一・投野由紀夫編『プログレッシブ英和中辞典 第5版』小学館、2012年。
・道世『法苑珠林』668年。
・松尾芭蕉「座右の銘」貞享年間(1684〜1688年)成立。
・坪内逍遙『当世書生気質』1885〜1886年。























