【故事成語】
勝ちを千里の外に決す
【読み方】
かちをせんりのそとにけっす
【意味】
自分は戦場へ行かず、離れた場所ではかりごとをめぐらして、遠い戦場で勝利を得させること。転じて、すぐれた作戦や見通しによって、遠くの結果を決めること。


【英語】
・win a victory from afar through strategy.(作戦によって遠くから勝利を得る)
【類義語】
・運籌帷幄(うんちゅういあく)
・籌を帷幄に運らし、勝ちを千里の外に決す(ちゅうをいあくにめぐらし、かちをせんりのそとにけっす)
「勝ちを千里の外に決す」の故事
「勝ちを千里の外に決す」は、中国前漢(ぜんかん)の歴史家・司馬遷が著した『史記(しき)』の「高祖本紀(こうそほんぎ)」に出てくる言葉に由来します。『史記』は、上古の黄帝から前漢の武帝までを扱う通史で、本紀・表・書・世家・列伝から成る大きな歴史書です。
もとの場面は、漢の高祖である劉邦(りゅうほう)が、なぜ自分は天下を取ることができ、項羽(こうう)は敗れたのかを語るところです。劉邦は、家臣たちのすぐれた力を認め、自分一人の力で天下を取ったのではないと述べます。
その中で劉邦は、張良(ちょうりょう)・蕭何(しょうか)・韓信(かんしん)の三人を挙げます。遠く離れたところで作戦を立てる力では張良に及ばず、国を安定させて兵糧を絶やさない力では蕭何に及ばず、大軍を率いて戦う力では韓信に及ばない、と語ります。
この言葉の核になる原文は、「夫運籌策帷帳之中,決勝於千里之外,吾不如子房」です。やさしく言えば、「陣中の帳の中で作戦をめぐらし、千里も離れた戦場の勝利を決めることでは、私は子房に及ばない」という意味です。
ここでいう「子房(しぼう)」は、張良の字(あざな)です。張良は前漢創業の功臣で、韓の貴族の出身でしたが、のちに劉邦の謀臣となり、漢の成立を助けました。
「籌策(ちゅうさく)」は、はかりごと・計略・策略を指します。「帷帳(いちょう)」は幕を張った軍中の場所であり、のちの形に出る「帷幄(いあく)」も、軍の本営や作戦を立てる所を表す言葉です。
つまり、この故事のもとの意味は、張良が自ら剣を取って戦場を走り回ったということではありません。軍の本営で作戦を考え、その作戦によって遠い戦場の勝敗を左右したという評価です。
『史記』の「留侯世家(りゅうこうせいか)」にも、張良の功績を述べる形で「運籌策帷帳中,決勝千里外,子房功也」と出てきます。こちらでは、帳の中で作戦をめぐらし、千里の外で勝利を決めたことは子房の功績である、という形で述べています。
後漢(ごかん)の班固(はんこ)らによる『漢書(かんじょ)』では、「夫運籌帷幄之中,決勝千里之外,吾不如子房」という形も出てきます。『漢書』は前漢の歴史を記した正史で、後の史書の手本にもなった書物です。
このように、もとの表現には「帷帳」「帷幄」、「於千里之外」「千里外」など、いくつかの形があります。日本語では、その後「籌を帷幄に運らし、勝ちを千里の外に決す」や、後半だけを用いた「勝ちを千里の外に決す」という形で理解されるようになりました。
現在の「勝ちを千里の外に決す」は、ただ遠くから命令することをほめる言葉ではありません。状況を広く見通し、直接その場にいなくても結果を左右するほどの作戦を立てることを表す故事成語です。
「勝ちを千里の外に決す」の使い方




「勝ちを千里の外に決す」の例文
- 社長は市場の変化を早く読み、勝ちを千里の外に決すように新しい事業を進めた。
- 監督は相手チームの弱点を見抜き、勝ちを千里の外に決す作戦を立てた。
- 文化祭の係分担を前もって細かく決めた委員長は、勝ちを千里の外に決す働きをした。
- 経験豊かな参謀は戦場に出なくても、勝ちを千里の外に決す知恵をもっていた。
- 大会前の情報分析が正確だったため、チームは勝ちを千里の外に決すことができた。
- 大きな計画では、目の前の作業だけでなく、勝ちを千里の外に決す広い見通しが必要になる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・平凡社編『世界大百科事典』平凡社。
・司馬遷『史記』前漢。
・班固『漢書』後漢。























