【ことわざ】
粥腹も一時
【読み方】
かゆばらもいっとき
【意味】
わずかなものでも、一時しのぎの役には立つことのたとえ。空腹のとき、粥でも腹に入れればしばらくはしのげるという意味からいう。


【英語】
・better than nothing.(何もないよりはまし)
・Anything is better than nothing.(何もないよりは何かあるほうがよい)
【類義語】
・茶腹も一時(ちゃばらもいっとき)
・湯腹も一時(ゆばらもいっとき)
「粥腹も一時」の語源・由来
「粥(かゆ)」は、米などを多めの水で柔らかく煮た食べ物を指します。「粥」という漢字にも、よく煮た米、つまり「かゆ」の意味があります。
「粥腹」は、粥を食べただけで腹を満たすことを表します。十分に力が出るほどの食事ではなく、力の入らない腹ぐあいをいうこともあります。
この「粥腹」の古い用例は、洒落本(しゃれぼん)の『残座訓(ざんざくん)』(1784年・江戸時代後期、鈍九斎章丸作)に出てきます。そこには「かゆばらは養生訓のおしえなり」とあり、粥だけで腹を満たすことを指す言葉として使われています。
洒落本は、江戸時代中期から後期にかけて流行した小説の一種で、遊里の会話や風俗を写実的に描きました。『残座訓』が刊行された天明期は、洒落本が盛んに作られた時期に当たります。
「一時(いっとき)」は、しばらくの間という意味を表します。「粥腹も一時」の「一時」も、長く続く満足ではなく、少しの間だけしのげることを示しています。
つまり、このことわざは、粥のように軽く、十分な力にはなりにくい食べ物でも、何も食べないよりは空腹を一時的にまぎらせることができる、という生活上の実感から生まれた言い方です。
同じ形のことわざに、「湯腹も一時」があります。『江戸土産』(1697年・江戸時代前期)には「湯腹一時」という用例があり、湯を飲むだけでもしばらくは空腹をまぎらすことができる、という意味で使われています。
また、「茶腹も一時」も同じ考え方の言い方です。俳諧『つげのまくら』(1707年・江戸時代中期)には「一ふく飲んで茶腹一時」とあり、茶を飲むだけでも空腹を一時的にしのげることを表しています。
これらの表現には、「湯腹」「茶腹」「粥腹」のように、十分な食事とはいえないもので腹を満たす言葉が共通しています。いずれも、わずかなものでも、その場をしのぐ役には立つという発想をもっています。
「粥腹も一時」は、その中でも、粥を食べるという具体的な行為に根ざした言い方です。粥は腹には入りますが、力強く長く働くための食事としては物足りないため、「とりあえずの間に合わせ」という意味がよく表れています。
このことわざは、単に「粥を食べる」という食生活の話だけにとどまりません。現在では、十分ではない材料や時間、資金、方法でも、何もしないよりは急場を支える助けになる、という広い意味で使われます。
「粥腹も一時」の使い方




「粥腹も一時」の例文
- 昼食を取る時間がないので、持っていた小さなパンで粥腹も一時とした。
- 古い机を会議室に運び、粥腹も一時で受付台の代わりに使った。
- 予算が足りないため、今回は中古の機材を借りて粥腹も一時とすることにした。
- 停電で暖房が使えず、家族は毛布を重ねて粥腹も一時の寒さ対策をした。
- 本格的な修理は来週になるので、応急処置で粥腹も一時とするしかない。
- 資料がそろうまで、簡単なメモを配って粥腹も一時の説明を行った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小川環樹・西田太一郎・赤塚忠・阿辻哲次・釜谷武志・木津祐子編『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA、2017年。
・鈍九斎章丸『残座訓』繁栄堂、1784年。
・『江戸土産』1697年。
・『つげのまくら』1707年。























