【ことわざ】
置かぬ棚を探す
【読み方】
おかぬたなをさがす
【意味】
あるはずのない物を探すこと。また、体裁を取り繕うため、ない物を探すそぶりをすること。


【英語】
・a wild-goose chase(見つかる見込みのない物を探す、むだな捜索)
【類義語】
・置かぬ棚をまぶる(おかぬたなをまぶる)
・置かぬものを尋ねる(おかぬものをたずねる)
【対義語】
・置かぬ棚をも探せ(おかぬたなをもさがせ)
「置かぬ棚を探す」の語源・由来
「置かぬ棚を探す」は、物を置いていない棚を、何かが入っているかのように探す姿から生まれたことわざです。「置かぬ」は「置いていない」という意味で、探している物が初めからそこに存在しないことを表します。
あるはずのない物を求めても、見つかることはありません。そのため、この言い方は、手に入る見込みのない物をむだに求めることを表すようになりました。
また、客に出す食べ物などがないとき、何かがあるように見せかけて棚を探すふりをすることもあります。そこから、何も持っていないことを隠し、体裁を取り繕おうとする振る舞いを表す意味も生まれました。
この発想に近い古い言い方は、浅井了意の仮名草子『かなめいし』(1663年・江戸時代前期、浅井了意著)に出てきます。仮名草子(かなぞうし)は、江戸時代初期に、仮名を多く用いて人々への教えや世の中の出来事などを記した読み物です。
『かなめいし』には、「俄にをかぬものを尋るやうに」という一節があります。大きな地震が起きてから、それまで顧みなかった神に急にすがろうとする人々を、「置いてもいない物を突然探し求めるようなものだ」とたとえた表現です。
この用例では、まだ「棚」という言葉は使わず、「をかぬものを尋る」と表しています。しかし、初めから用意していない物や、そこにない物をあとから求めるという考え方は、現在の「置かぬ棚を探す」と共通しています。
さらに、井原西鶴の浮世草子『男色大鑑(なんしょくおおかがみ)』(1687年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「おかぬ棚をまぶり」という形が出てきます。17世紀後半には、「置かぬ」と「棚」を組み合わせた、現在の形にきわめて近い表現が使われていました。
この「まぶる」は、見守る、目を配って見るという意味をもつ言葉です。「置かぬ棚をまぶる」は、物を置いていない棚を見回して探すことから、あるはずのない物を求めることや、探してもかいがないことを表しました。
「置かぬものを尋ねる」では、探す対象を広く「もの」と表していましたが、「置かぬ棚をまぶる」では、何も入れていない棚をのぞき込む姿が具体的に描かれています。そのため、むだな捜し物や体裁を取り繕う様子が、目に浮かぶような言い回しになりました。
その後、古い言葉である「まぶる」に代わり、意味の分かりやすい「探す」を用いた「置かぬ棚を探す」という形が使われるようになりました。「尋ねる」「まぶる」「探す」と動詞は異なりますが、ない物を求めるという考え方は一貫しています。
よく似た言い方に、「置かぬ棚をも探せ」があります。こちらは、物をなくしたときには、置いた覚えのない棚まで念入りに探せという教えであり、「あるはずのない物を探す」という「置かぬ棚を探す」とは、表す考え方が反対になります。
「置かぬ棚を探す」は、もともと存在しない物を求めるむだを戒めるとともに、何かを持っているように装い、体裁を保とうとする姿を言い表します。何も入れていない棚を探すという身近な動作が、人の見栄や実りのない努力を鋭く表すことわざとして定着しています。
「置かぬ棚を探す」の使い方




「置かぬ棚を探す」の例文
- 客に出す菓子がないのを隠そうとして空の戸棚をかき回す姿は、置かぬ棚を探すようなものだった。
- すでに処分した書類を倉庫で探し続けても、置かぬ棚を探すにすぎない。
- 根拠のない噂を証明する材料を求める議論は、置かぬ棚を探すようなものだ。
- 在庫がないと知りながら店内を探すふりをするのは、置かぬ棚を探す振る舞いに当たる。
- 約束されていない援助をいつまでも当てにするのは、置かぬ棚を探すに等しい。
- そもそも作られていない名簿を何日も捜す仕事は、置かぬ棚を探す結果に終わった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・Oxford University Press, Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 10th ed., 2020.
・谷脇理史・岡雅彦・井上和人校注・訳『新編日本古典文学全集 64 仮名草子集』小学館、1999年。
・浅井了意『かなめいし』1663年。
・井原西鶴『男色大鑑』1687年。























