【故事成語】
過ちは好む所にあり
【読み方】
あやまちはこのむところにあり
【意味】
失敗は、自分の好きなことや得意なことをしているときに、油断から起こりやすいという戒め。


【英語】
・pride comes/goes before a fall(慢心は失敗を招く)
【類義語】
・善く泳ぐ者は溺れ、善く騎る者は落つ(よくおよぐものはおぼれ、よくのるものはおつ)
・得手に鼻突く(えてにはなつく)
・川立ちは川で果てる(かわだちはかわではてる)
「過ちは好む所にあり」の故事
「過ちは好む所にあり」は、中国前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』(前2世紀成立、淮南王劉安撰)の「原道訓(げんどうくん)」に基づく表現です。『淮南子』は、道家の考えを軸に、政治・兵学・天文・地理など幅広い知識をまとめた書物です。
「原道訓」には、「夫善遊者溺,善騎者墮,各以其所好,反自為禍」とあります。これは、泳ぎのうまい者が水で溺れ、馬に乗るのがうまい者が馬から落ちるように、人はそれぞれ自分の好むこと・得意なことによって、かえって災いを招く、という意味です。
この一節で大切なのは、「得意な人でも失敗することがある」というだけではありません。泳ぎのうまい人は水を知っているからこそ油断し、乗馬のうまい人は馬を扱えると思うからこそ気をゆるめます。つまり、失敗の原因が、苦手なものではなく、本人が自信を持っているものの中にひそんでいる、という点に重みがあります。
同じ段落では、そのあとに、ものごとを無理に追い求めたり、利を争ったりする者が行き詰まるという考えが続きます。『淮南子』の「原道訓」は、力や知恵を前に出して争うよりも、道にかなったあり方を大切にする文章です。その中で、泳ぎや乗馬のたとえは、得意な力そのものが、慢心したときには危うさに変わることを示しています。
日本語では、この原文の考えが「善く泳ぐ者は溺れ、善く騎る者は落つ」の形でも伝わりました。この言い方は、得意とすることでは油断してかえって失敗しやすい、という戒めとして説明されています。また、『曾我物語』(南北朝ごろ成立)にも、「水をよくおよぐ者はむもれ、馬によくのる物はをち」という近い形の古い用例があります。
「過ちは好む所にあり」は、その考えをさらに短く、「失敗は好む所に起こる」と言い表した形です。「好む所」は、単に好きな遊びや趣味だけでなく、自分が得意だと思っている分野、慣れていて気を抜きやすい場面も指します。だからこの故事成語は、好きなことや得意なことほど、最後まで注意を失ってはならないという、落ち着いた戒めとして用いられます。
「過ちは好む所にあり」の使い方




「過ちは好む所にあり」の例文
- ピアノが得意な姉は簡単な曲で指使いを間違え、過ちは好む所にありを思い知った。
- 慣れた道だからと地図を見ずに歩いた結果、道に迷って、過ちは好む所にありと感じた。
- ベテランの職人ほど基本の確認を怠らないのは、過ちは好む所にありを知っているからだ。
- 料理好きの父は得意なカレーで塩を入れすぎ、過ちは好む所にありと苦笑した。
- いつも任されている会計で数字を見落とし、過ちは好む所にありという言葉が身にしみた。
- サッカー部の主将は得意なドリブルで油断し、過ちは好む所にありと反省した。
主な参考文献
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』公益財団法人日本漢字能力検定協会、2014年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・劉安撰『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 10th edition』Oxford University Press、2020年。























