【故事成語】
衣帯を解かず
【読み方】
いたいをとかず
【意味】
衣服を着替える間も惜しむほど、休まず一つの物事に専念すること。


【英語】
・work tirelessly(休まず熱心に働く)
・burn the midnight oil(夜遅くまで働く、または勉強する)
【類義語】
・不眠不休(ふみんふきゅう)
・昼夜兼行(ちゅうやけんこう)
・一心不乱(いっしんふらん)
【対義語】
・悠悠自適(ゆうゆうじてき)
「衣帯を解かず」の故事
「衣帯を解かず」の「衣帯」は、衣と帯、つまり着物と帯を表す言葉です。古い言い方では、身につけている帯、または着物と帯をまとめていう言葉として用いられてきました。
この故事成語は、漢語形では「衣帯不解(いたいふかい)」、または「不解衣帯(ふかいいたい)」と表されます。「衣帯を解かず」は、その内容を日本語の読み下しに近い形で言い表したものです。
もとになった話は、中国の歴史書『漢書(かんじょ)』「王莽伝(おうもうでん)」に出てきます。『漢書』は、前漢の歴史を記した中国の正史で、王莽の経歴や政治的な歩みも詳しく述べています。
王莽は、前漢の皇后の一族に連なる人物でした。父を早く亡くし、同族の中では地位に恵まれない立場でしたが、礼を学び、つつましく身を修め、母や兄嫁、兄の子の世話にも心を尽くした人物として描かれています。
その王莽の伯父にあたる大将軍の王鳳(おうほう)が病に倒れたとき、王莽はそばに付き添って看病しました。原文には、王莽が薬をみずから試し、髪も乱れ、顔もよごれたまま、「不解衣帶連月」、つまり何か月も衣帯を解かなかったと書かれています。
ここでいう「衣帯を解かない」とは、帯をほどいて休むことさえしない、という意味です。病人のそばを離れず、身なりを整える時間も惜しんで看病を続けた姿が、この表現の中心にあります。
王鳳は死に臨んで、王莽を太后と皇帝に託しました。その後、王莽は黄門郎となり、さらに射声校尉に進んだと記されています。看病の献身ぶりが、王莽の評判と出世に結びつく場面として語られているのです。
この故事では、もともとは病人に付き添う看病の熱心さが強く表されています。しかし、後には看病だけに限らず、仕事・学問・任務などに休まず打ち込むことを広く表す言い方になりました。
日本でも、「衣帯を解かない」という漢文風の表現は早くから受け入れられていました。『聖徳太子伝暦(しょうとくたいしでんりゃく)』には、天皇の病に対して太子が衣帯を解かず、日夜そばで看病したという文脈の用例があります。
このように、「衣帯を解かず」は、衣服を着替える、帯をほどく、横になって休む、といった日常の動作を後回しにしてまで、一つのことに尽くす姿を表します。現在では、必死に働くことをほめる場面にも使われますが、無理をしすぎる様子を述べるときにも用いられる表現です。
「衣帯を解かず」の使い方




「衣帯を解かず」の例文
- 医師たちは、けが人の処置のために衣帯を解かず対応を続けた。
- 研究者は、実験の失敗の原因を探るため、衣帯を解かず記録を読み返した。
- 編集部は、締め切り前の確認作業に衣帯を解かず取り組んだ。
- 母は、病気の祖父のそばで衣帯を解かず看病した。
- 大会前の監督は、選手一人一人の課題を見直すため、衣帯を解かず準備にあたった。
- 災害のあと、職員たちは避難所の運営に衣帯を解かず力を尽くした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・三省堂編修所編『新明解四字熟語辞典 第二版』三省堂、2013年。
・班固ほか『漢書』後漢。
・『聖徳太子伝暦』917年ごろ。























